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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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ポジティブ・コーチングを考える小説 第1章
元近鉄バッファローズのコーチで97年NYメッツでもコーチとして活躍した立花龍司氏の著作「ポジティブ・コーチング」から発想を得た短編小説

一九八三年 夏
 
「おしんの「しん」は、辛抱のしん!」
 それは、その年の流行言葉だった。おしんとは、NHKの朝の連続ドラマに登場した主人公の女性の名前だ。明治から昭和までの時代をさまざまな苦難を乗り越えながら生き抜くおしんの姿に日本中が大感動した。おしんは、十歳にも満たない幼いときに、家族の貧しさゆえに米俵と交換に奉公に出されてしまう。
 小さい体の背に奉公先の赤ん坊を抱え子守する姿は、苦難の人生を生き抜くおしんの象徴であった。今の時代なら誰もが学校に行って勉強をする年頃に、家族のため必死になって働かなければならなかったのだ。
 昔の子供たちは、辛抱強くてえらい。それに比べ、今の子供たちは恵まれ過ぎて、わがままでどうしようもない。おしんに見習って、辛抱強くなりなさい!
 そんな言葉が、巷に飛び交った。 
 中田俊秀は、その頃十七歳の高校二年生だった。頭を丸刈りにした野球部に所属する硬派な高校生。毎日六時間にも及ぶ部の特訓も、はやりの「辛抱」の精神で頑張っているつもりであった。純情で一途な野球少年であった。
 野球を始めたのは、小学生のリトルリーグの時からであった。守備のポジションは、ピッチャーである。中学の時にエースに抜擢され、県内の地区大会でチームを準優勝させた実績がある。その実績を買われ、県内でも屈指の野球の名門であり、また、進学校として名の知れた県立K高校に推薦入学できた。
 K高校は、創立八十年の伝統があり、毎年国立や私立の名門大学へ合格者を輩出していた。野球に関しては、毎年、県の予選で準決勝か決勝までいくほど実力のあるところだ。
 だが、惜しくも今まで甲子園出場は果たしたことがない。だからこそ、K高校は俊秀のような優秀な選手を集め、進学のみならず野球でも格を上げ文武両道を確立しようとしていた。そのおかげで俊秀は、成績がさほど良くはないにもかかわらず、K高校に入学ができた。
 俊秀は心に決めていた。K高校のためにも甲子園出場を果たしてやる。そして、甲子園で大活躍をしたら、目指すはプロ野球だ。
 そのためには必死になって体を鍛えなくてはならない。K高校の野球部ではとりあえずエースの座にあるが、全国レベルでは、まだまだ自分は未熟なレベルにある。野球で特に重要なのは、足腰と腹筋である。バッティングにも、ピッチングにも体全体を支え正しいフォームを形付ける下半身の力は重要なのである。
 俊秀は毎日、日課として兎飛びでグラウンドを十周、腰にタイヤをつなげたロープを巻いてタイヤ二輪を引っぱり走るトレーニングを五週している。腹筋は、地面に仰向けになった上で部員に足首を支えてもらいながら上体を起こすという練習を毎日百回こなす。また、ピッチャーとしてより速い球を投げられるようになるため、肩の筋力増強のため毎日腕立て伏せ百回、懸垂百回を行なっている。
 特に最近は、ピッチングの速度が伸び悩み、克服課題の一つとなっている。毎日休まずこれらの日課を繰り返している。
 かなり辛い練習だが、これだけの辛抱ができなければ自分はけっして強くなれないと信じていた。野球部の監督も、先輩も、同学年の部員も、一年生の後輩も、みんな同じことを信じている。だから頑張っている。俊秀の尊敬する父親も言っている。
「辛抱すれば、いつか報われる」と。
 俊秀の家庭は、父親が大手一流商社の会社員で課長職についている。母親は、典型的な中年の専業主婦だ。そして、俊秀は、その両親の一人息子である。父、源太郎は、年齢四十二歳、頑固で檄を飛ばすと恐い男である。時には俊秀を殴り、食事の置かれた卓袱台をひっくり返すことがある。
 俊秀と同じく昔は、高校球児だった。甲子園の夢は果たせなかったが、かつては俊秀と同様学校のエースピッチャーとして活躍したことがある。息子の自分に自らが果たせなかった甲子園の夢を叶えて貰いたいと思っているのだった。
 母、恵津子は、良妻賢母という言葉がぴったりの女性であった。優しく、女らしく、父親と自分のために、おいしい弁当を作ってくれる。そして、まるでおしんのように辛抱強いところがある。俊秀にとっては女性の理想像だった。
 

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テーマ:誰かに伝えたくなる、話。(*´ー`) - ジャンル:小説・文学

スポーツ | 13:30:53 | Trackback(0) | Comments(0)

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