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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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KIMONOを着よう! 第4章 芸者とはアーチスト
日本の民族衣装、着物を通して学ぶ、伝統と文化の重さ。

まずは第1章から第3章をお読み下さい。

季節は冬へと移り変わった。浅草を案内してくれないかというガイドの要望が来た。一郎は、長襦袢、長着、羽織を身につけ、足袋を履き、それに合う草履を履き、しっかりとした着物姿になった。だが、それだけだと肌寒い。襟や裾から空気が入ってくるので、洋服と違い密閉性が低いのだ。昔の人は、着物で冬を過ごしたかと思うと、辛抱強かったのではないかと思えるほどだ。

清美さんと真美さんも来る予定になっている。浅草の雷門前で午後1時に待ち合わせることに。天気は冬晴れ。
asakusa2.jpg


彼女たちは先に来ていた。驚いたのは、二人とも着物姿なのである。真美さんの着物姿に驚いた。何とかわいらしい。赤をベースにした花柄で、髪の毛も結いあげかんざしをつけている。帯も、花柄の文様で、赤い紐の草履。まるで日本人形だ。今まで見たのとは、全く違う印象を受ける。対称的に清美さんは、緑色の地をベースに、ところどころに文様があるデザイン、派手さを控えた分、上品でシックに決めた着物姿だ。中年女性らしい魅力を醸し出している。両者は対象をなす女の魅力を醸し出している。

一郎は二人の着物美人に挟まれる形で、雷門の前でゲストを待ち合わせることに。まさに両手に花。通りすがりの人々の注目の的となった。浅草寺を背景に、着物を着た男女の姿は実に絵になる。写真を撮る人までいた。

しばらくしてゲストらしい人々が。何でも、事前のメールでのやり取りだとオーストラリアから来た人々で、申し込んだのは日本の大学に留学のため2年前から東京に住んでいるニコールという女子学生。彼女の友人がスキーのため日本に来たので、スキーリゾートに行く途中、東京に立ち寄り観光を楽しもうということになったのだ。

ニコールは金髪で眼鏡をかけた真面目そうな感じがする女の子。同じ年ぐらいの男女5人を連れてきた。
「こんにちは」とニコールが上手な日本語で話しかける。
「こんにちは」と清美が日本語で返す。真美も一郎も挨拶した。他のゲストも、にこにこしながら挨拶をする。一人、背が高くすました顔をした女性だけそっけない挨拶をする。名はジョアンナという。
「私たち、とってもエキサイトしているの。それにこんなきれいな着物のガイドさんたちに連れて行ってもらえるなんてラッキーだわ」
ニコールがそう言い、ジョアンナ以外は実に楽しそうだ。
さっそく、雷門から解説。浅草寺の歴史を簡単に解説。門にぶら下がっている大提灯が重さ700キロあること、台風が来る時は畳むことなどを話す。

次に門をくぐり仲見世を渡る。相変わらず人でごったがえしている。清美さんがゲストの男性と一緒に話しこんでいた。一郎と真美は少し離れて、一行を先導するように歩いた。真美が歩きながら一郎に話しかけた。
「この着物、清美さんから貸してもらったの。清美さんが若いころに着ていたものだって。着付けも教えてもらった」
「似合っていますよ。とてもきれいですよ」
「そう、嬉しいわ。でも、生まれて初めての体験。驚くわね。動きにくいのもそうだけど、しっかり締めつけられて、背筋がピンとならないといけないから、猫背ができないの。姿勢がよくなりそう」
とにこにこと話す。初体験をとても喜んでいるようだ。
 一郎は、そのそばでオーストラリアの女性二人が英語でするおしゃべりにも耳を傾けた。ニコールとジョアンナだ。ジョアンナが不機嫌そうな口調でニコールに対して言う。
「分かっているわよね。私はスキーのために日本に来たの。明日はニセコに飛ぶのだから、あそこでオーストラリア人だけの施設でスキーバケーションをするの。日本なんて興味ないわ。クジラを殺す残酷な人々の国よ。あなたのように大学に留学してまで日本に親しもうなんて気がしれないわ」
「ジョアンナ、それでも、せっかく来たのだから、その嫌いな日本を知っておく必要もあるのじゃない。スキーだけではない日本を楽しむべきよ。高いお金を出して、長いフライトで来たのだし」
とニコール。
ニコールの言うとおりだと思った。高いお金を出して長いフライトに耐えてわざわざ日本にまで来てくれた外国の人をおもてなしするのが一郎をはじめとするガイドの使命だ。そのためにも着物を着ている。彼らに異国情緒を楽しんでもらうためだ。

宝藏門、本堂へと案内する。そして、五重塔。五重の塔と共に、世界一の高さを誇るタワー、スカイツリーも眺められるので紹介。新旧時代の塔比較ということで実に面白い眺めである。ゲストは大感動だ。ジョアンナを除いて。

asakusa1.jpg

さて、次に浅草寺の近くにある外国人向けの文化紹介施設「日本文化センター」に一行を連れていくにした。


日本文化センターでは、外国人の観光客に日本文化を分かりやすく解説する様々な展示と体験イベントなどを催している。

丁度、茶道体験会が開かれていた。立礼席という形式で畳の上に正座するのではなく、椅子に座りテーブルの上でお茶とお菓子を楽しむ茶道だ。一行は参加することにした。

着物姿をした年老いた女性が亭主として茶を立てている。センターのガイドが、英語で茶道についての話と、茶道におけるゲストのマナーを解説する。

まずは懐紙を配り、テーブルの上に置く。その後、菓子鉢が回され、そこから各人、和菓子を一つずつ箸を使い取り懐紙に置く。皆、作法通りにはいかないようだ。所詮は外国人向けの体験会だから、そこは適当に。

お菓子を口にした後、立てられた茶を飲む。茶碗を回す作法をまねごとのようにする。
「どうしてこんなことするのよ。形式ばって、日本人ってみんな形式ばかりにこだわるのね」
とジョアンナ。もっとも、その意見には一郎も賛成している。茶道とは形式ばかりの事柄という印象を受ける。それは日本人一般が持っている印象でもある。
お茶を飲んだ後、それぞれが感想を述べる。
「おいしいわ。さっきのスイーツともマッチしている感じがする」
と御機嫌のニコール。
「まあ、いいかな。少し苦い感じもするけど、試すだけの価値はあるね」と男の一人が言う。
しかし、ジョアンナは
「なんなの、これ。紅茶とケーキのほうがずっといいわ。日本のものって全然、私の興味をひかないわ。食べ物にしても、日本の食べ物ってどれも味が薄いし、そうでなければ塩辛すぎるのばかり。ニセコでオーストラリア人用の食事をして、滑りたいわ。そのために来たのだし」
周囲の空気は一気に白けムードに。何も、そんなにもぶしっつけにいうこともなかろうに、と。

「ねえ、日本の楽器を使った音楽会をやっているようだから、それを試してみないかしら」
とその空気を打ち消すかのように清美が一行に言った。
「グッドアイデアね」とニコールがにっこりと笑み返答。
ということで、一行は音楽会に。分かりやすく言えば、琴、三味線、笛を使った演奏会だ。
小部屋で十数人ほどが入れる空間に椅子が並べられ、畳が敷かれた台が奥にありステージとなっている。
演奏する人々が楽器と共に現われ、演奏が始まった。ゲストたちは興味深そうに音楽に聞き入り、畳の台の上で着物姿で演奏する人たちにも見入っていたが、ジョアンナは白けた表情。演奏が一通り終わり、一行は拍手だが、ジョアンナは拍手せず。
「このような音楽を奏でながら、ゲイシャが舞を踊るのです」と清美がいう。
「へえ、芸者か。日本に来たのだから是非とも会いたいな」と男が言う。
「会えますよ。この近くに、芸者の人たちがゲストをもてなすお茶屋とよばれるところがあります」と清美がいう。それは浅草の隣の向島とか呼ばれるところだ。とっても高いところで庶民には手が出ない。それも「一見さんお断り」という特別なルールがあり敷居がとても高い。一郎には無縁の世界だ。

「ねえ、芸者って売春婦のことでしょう。男っていやね、そんなものに興味を持つなんて」とジョアンナが唐突なことを。
「芸者は売春婦ではありません。舞を踊ったり、楽しい話をして御客様をもてなす芸を売りものとした仕事をする人々です。アーチストであり、エンターテイナーなのです。それが芸者の意味なのです」と清美が怒り心頭で言う。
ジョアンナは突然つっかかられたのに衝撃を受けた様子で、負けずとむきになり、しかめっ面となり言った。
「あら、あんな堅苦しい音楽で、それもとっても重そうな衣服を着て、どのように踊れるっていうの? そんなものでゲストをもてなせるっていうの?」
清美はジョアンナを鋭い目つきでにらむ。そして、さっと畳の台の方に向かう。
「何でもいいから弾いてみて。舞の演目、何か知っているでしょう」と三味線を持つ女性に対して言う。清美は帯に挟んでいた扇子を取り出し、ぱっと広げる。着物姿に扇子を持つ姿。まるで、芸者になったかのような姿勢。
三味線が奏でられる。清美は、その曲に合わせ、体をくねらせ踊る。舞だ。優雅に、まるで着物が全くの縛りになっていないかのように自由自在に蝶になったかのように。
その動きに何一つ無駄はなく、また、全く乱れがない。日本舞踊というものなのか。ただの踊りではなく、何か超越した芸術というものを感じさせる。着物の美しさ、艶やかさを余すことなく醸しだしている。一郎も、清美もゲストたちも皆、釘付けだ。
清美さん、あなたは、一体何者なのだ。

演奏が終わり、清美も舞を終えた。実に美しく締めた。一同、大拍手だ。
「ブラボー」
「ビューティフル」
とゲストたちは声を上げた。ジョアンナは何も言わないが、拍手をしながら茫然とした表情になっていた。とても感動しているようだ。
清美は台から下り、ジョアンナに近づき言った。
「いかがでした?」
「あ、ああ、案外、着物でも踊れるものなのね」とおどおどとしながら言った。
「ええ、体ががんじがらめでも踊れます。むしろ、その方がいいダンスができるというものなのです。それはスキーとスノーボードでも同じでしょう。足があんなに固定されているのに雪の上では、自由自在に動けますよね」
清美は見事に言い放つ。その言葉にも、ジョアンナは圧倒されたようだ。

ガイドが終わり、3人で近くの喫茶店にいくことになった。そこで、清美は自分が元向島の芸者であったことを話した。何でも、16の時から置屋に入り、その後、半玉を経て、芸者となったのだが、それから20代後半になって客として出会った実業家のカナダ人男性と恋に落ち、その後、結婚することに。夫の故郷であるカナダに移住。子供も生まれたが、数年前、夫が交通事故で死亡。悲しみを引きずりたくない想いから日本に戻ったのだという。

習った英語を活かし通訳者の仕事を始めたのだが、そのうち、ボランティアで外国人にガイドをすることに関心を持ってきた。ガイドとして、言葉の橋渡しだけでなく、もてなすという流儀を活かしたいと考えたのだと、それはまるで芸者であった自分と共通する部分であったと思える。
「今日のゲストのおかげで、すっかり芸者時代の自分に戻った気分よ。もう忘れてしまったと思っていたけど、実のところ、骨の髄までしみついていたのね」
清美さんは満足そうな表情だ。なるほど、そんな経緯があったのか。

第5章につづく
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和装 | 20:55:33 | Trackback(0) | Comments(0)
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