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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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北京の恋 最終章 決意
北京を舞台とした短編恋物語。筆者の実際の体験を基にしたストーリー。

まずは第1章から第6章をお読み下さい。

 紅玲はさっと受話器を電話機にぶつけるように置いた。かなり気が立っているような様子だ。
 雅夫は、さっと視線を廊下の方に向け素知らぬ振りをして歩き去った。雅夫は、衝撃を受けていた。それは、紅玲が以前、外国人と結婚をしていたこと、そして、離婚を経験し、今は別の男性を好きになっていることを知ったからだ。何というか、最初から自分は太刀打ちできる立場になかったことを思い知らされた気分だ。
 授業の時間になった。雅夫は、先に教室の椅子に座っていた。王紅玲老師が入ると、お互い気まずい表情を付き合わせた。
 紅玲は椅子に座り、雅夫を真正面に見て顔を付き合わせる。真剣な目をして言う。
「雅夫、さっきはみっともないところを見せてしまったわね。気になるでしょうから話しておくわね。電話の相手は、カナダ人で私の元夫、二年前、私の生徒だった人よ。こことは違う別の中国語学校で教師をしていた時に出会ったの。彼は私に中国語を習いながら、私に興味を示して、私も彼に何となく興味を持ちだして、それで付き合いが始まり、結婚をすることになって、カナダに私は移住したの。だけど、結婚生活が始まって、半年もしない内に別の女性と浮気をして、私はすごく傷つけられたわ。それで、また中国に戻って最近、ここで教師を始めることになったの」
 紅玲は淡々と語った。雅夫は、圧倒されてしまった。なるほど、そういう過去があったのか。まあ、誰にでも、そんな体験はあるだろう。だが、何も自分にわざわざこんなことを話さなくてもと思った。慰めの言葉が欲しいのか。それなら、新しい恋人に求めればいいのじゃないかと思った。
 だが、雅夫は、紅玲が可哀想になり、男らしく振る舞いたくなり言った。
「君のような美人を妻にめとりながら浮気をするなんてとんでもない男だね。羨ましいだけでなく、許せない男だ、そのカナダ人」
 紅玲の表情が急に和らいだ。微笑みながら雅夫に言った。
「ねえ、雅夫はこれまで結婚をしたことはあるの?」
「僕はまだだ。いつだってしたいと思っているけど」
 彼女にそんなこと言っても、意味がないと知りながら言ってしまった。何だか恥ずかしい。
「ねえ、あなたとは英語か中国語でしか話しをしてないけど、私、日本語が知りたいわ」
「へえ、日本語に興味があるんだ?」
「少しね。考えてみれば同じ漢字を使っているのよね」
「というよりか、日本が中国人から貰い受けたんだ」
「ねえ、日本語で我喜歓イ尓ってどう言うの?」
 雅夫は、紅玲の質問にどきっとした。一体どうしてそんなことを訊くんだとびっくりしながら、普通に応えた。
「ワタシハアナタガスキデス」
 紅玲が、復唱するように、同じ言葉を言う。だが、言いづらいようだ。
「もっと短い言い方があるよ。一言「スキ」と言えばいいんだ」
「スキ? それだけでいいの?」
「ああ、簡単だろう」
 一瞬、二人は見つめ合った。何だか、変な気分になってくる。
「やだ、私ったら、生徒に生徒の言葉を教えて貰うなんて。私が教える立場なのに。さっそく授業を始めましょう」
 気分は一転、通常通りとなった。雅夫はからかわれたような気分になった。彼女には、どうせ他の男がいるんだ。多分、中国人だろう。彼女のことなど、どうでもいい。
 その日の授業が終わり、雅夫は寮の部屋で一人じっくり考え込んだ。このまま、ここで中国語を習い続けるべきであろうか。当初は三週間で、それ以降、長期の学習をするのなら、一旦日本に戻り、再度、手続きをして一年間の語学留学をするつもりだったが、反日デモ以来、情勢は厳しい。日本人が中国に住むのはとても難しい状況だ。その上、彼女とのことがある。あっさりと振られても、想いを払いのけられず、お互い気まずくなっていくばかりだ。二週間ほど授業期間は残っている。使わなければもったいないが、このまま不自由な状態の上、王老師と顔を合わせ続けなければいけない。
 幸いにも、今回の反日デモのことを気にして、学院側は日本人学生に関しては、早期終了する者に対して、すでに支払った授業料や寮費の一部を返金すると申し出ている。里美は、帰国する決心をしたらしい。
 雅夫も心に決めた。日本に帰ろう。もう中国なんてどうでもいい。中国語の勉強もしなくていい。それよりも、すぐにでも、新しい仕事を探そう。今回のプランは失敗のようだ。
 雅夫は、事務局に帰国の意向を伝えた。それも急いで、明日の朝に発つということにした。航空会社にも電話して、明日午前の東京に戻る便を予約した。
 部屋に戻り、準備を整えた。王老師には、明日の朝、事務局が事情を伝えるという。雅夫は別れを伝えるのがつらかった。というよりか気まずかった。自分が恋心を抱き、それを彼女が振ったことが、全ての原因であると思われるのが気掛かりでならなかった。自分から直接言い出せなかったのだ。



 翌朝、北京首都国際空港へと向かうことになった。タクシーで行くのだが、里美も一緒に行くことになった。
 彼女は、窓の外を見ながらずっと落ち込んだ様子だった。こんなことがあっていいのかと雅夫は思った。勉学の熱意が、全く別の政治的な理由で阻害されてしまうなんて。そもそも学生である我々には関係のない二国間の政治の問題なのに。ともあれ、こんな状態では勉学など滞ってしまう。そんな状態から二人とも脱出だ。
 空港に着いた。出発手続きカウンターに向かったが、東京からの到着便が遅れていたため発券手続きが始まるまでには、まだ時間があった。思わぬ待ち時間ができてしまった。
 里美と一緒に空港内を歩いた。どこか、時間を潰せる場所はないかと見回した。しばらくして、レストランが見つかったので、そこに入ることにした。二人とも朝食がまだだったので、今の内に済ましておこうということになった。
 ベーコンエッグとミルクを注文して、食べながら、里美が雅夫に言った。
「ねえ、よければパパの会社で仕事を紹介してやってもいいわよ」
 雅夫は里美の嬉しそうに勧める顔を見ながら
「いや、構わないさ。そんなこと頼むのなんて悪いから」
「遠慮しないで。せっかく出会った縁なんだし」
「そうは言われても、そんなこと頼むなんてずうずうしいよ」
 しばらく、雅夫の再就職のことが会話の中心となり、そして、数分後、
「そうだね。せっかくだから紹介してもらうよ」
と何気なく雅夫は答えた。里美は、とても嬉しそうだ。大きな笑顔を見せ目が輝いている。
 食事が終わり、雅夫たちはレストランを出た。すでに東京便の発券手続きが始まったとのアナウンスが流れたので、手続きカウンターへと向かう。
 その時、英語で気になる話し声が雅夫の耳に入った。
「グレッグだ。今、空港に着いた。君に今から会いに行く。君の新しい男とも」
 携帯電話を持った背の高い白人男性が横を通り過ぎたのだ。
 雅夫は、その男の後を追った。里美が、「何しているの?」と声をかけるが気にならない。
 ついていく。男は、手にバッグを持ちながら、空港ビルの外に出てタクシーに乗り込む。
 そのタクシーが発車した後、雅夫もタクシーを呼び乗り込んだ。運転手にどこにいくのかと訊かれると、雅夫は「北京国際言語学院」と答えた。
 前のタクシーの行き先は、それに間違いがない。タクシーは発進した。丁度、さっき過ぎ去ったタクシーの後を追う形となった。
 雅夫は、ずっと気になっていたことがあった。紅玲の言っていた「好きな人」とは実際のところ誰なのだろうと? 彼女は、昨日別れた夫とのことは話したのに、そのことについては一切言及しなかった。

 グレッグ・スチュワート、三十四歳のビジネスマンは、カナダ人で一年半ぶりに北京に来た。北京は彼にとって思い出の地であった。二年前に中国語を学ぶため、北京の語学学校に入学し、そこで、美しい女性教師に一目惚れした。美しく清楚で東洋女性らしい魅力を備えた若い女性。男なら一目見て惚れない者はいない。もし彼女に会って恋しない男がいたとしたら、そいつはゲイだ。
 出会ってから中国語を学ぶことよりも、彼女に夢中になった。彼女を知れば知るほど夢中になっていった。そして、気が付くと彼女と結婚をして生涯を共にしたいとさえ思うようになった。彼女に想いを打ち明け、男女として付き合い始め、すぐにプロポーズをした。彼女は「しばらく考えさせて」と言い、すぐに答えてはくれなかったが、一ヶ月後、「イエス」と返事をしてくれた。
 二人は、カナダに住むことを決心した。彼女も移住には乗り気であった。カナダに関心があったという。二人でグレッグの出身地、バンクーバーで新婚生活を送ることになった。だが、幸せだった結婚生活に思わぬひびが入った。それは、グレッグ自身が入れてしまったひびだ。前妻のアンが寄りを戻したくてグレッグに迫ってきたのだ。アンは、グレッグを昔の思い出で誘惑し、グレッグと再び関係を結ばせ、そのことを新妻に話して結婚生活を台無しにした。
 新妻は、ショックの余り、体調を崩し入院、その後、グレッグに離婚を申し出た。グレッグは何度と弁解をしたが、聞いて貰えず彼女は北京へと戻っていってしまった。
 自らの愚かさを反省したが、グレッグは彼女を諦め切れなかった。彼女のことを忘れられなかった。彼女のいない日々など彼には地獄でしかなかった。何としてでも彼女を取り戻そうと決心した。
 そのために飛行機で北京まで飛んできた。何が何でも彼女を取り戻す。新しい男にも、その決意を話し分かって貰うつもりだ。

 タクシーは、北京国際言語学院に着いた。
グレッグは金を払い、学院の建物に入っていった。
 紅玲は、事務局から雅夫は帰国した知らせを聞いたところだった。とても驚いていた。理由は反日感情の高まりを懸念しての帰国とのことだった。他にも何人か日本人学生が同じ理由で帰国したというので、恐らくそれが主な理由だと思うが、昨日話したことがきっかけだったのではとも考えた。だが、いずれにせよ、自分に対し、理由を話すことはしにくいことだ。だが、もしかして、自分が思い切ってあることを話せば、帰国しなかったのかもしれない。彼女にとっては、とても勇気のいることであった。過去に失敗経験があり、そのことを引きずっているがため踏ん切りがつけないでいたことだ。だから、最初はとまどい、正直な気持ちを話せず、ごまかした。
 その失敗体験の元から今朝、電話があった。昨日に続き、不愉快な電話であった。声を聞くなりすぐに切ったが、会いに来ると言ってきた。
「ホンリン、会いたかった」
と英語で話しかける声が、振り向くと背の高い白人男性がいた。彼女に抱きつこうとする。
「グレッグ、来ないでって言ったでしょう」
と紅玲は怒った表情で怒鳴った。カナダから来たこの世で最も身勝手な男だ。
「アイ・ラブ・ユー、ホンリン」
とグレッグは涙を流しそうな眼差しを紅玲に送る。
「私はもうあなたを愛していないわ。もう何度も言ったでしょう」
 紅玲は睨みながら言う。
「新しい男ができたのか。そいつの方が俺よりいいのか。そいつに会わせろ。どこにいるんだ?」
 グレッグは、迫り来るように言う。グレッグは確信があった。彼女には、まだ新しい男はいない。きっと自分を避けるために嘘をついたのに違いない。嘘だと分かれば、自分と付き合わない理由がなくなる。
「ほら、そこにいるわ」
と紅玲が指差す。その方向に一人の男性がやって来た。髪の毛の黒い東洋人。背は一七〇センチぐらいだ。
「紅玲、君に話したいことがあって空港から戻ってきたんだ」
と雅夫は、紅玲を見つめながら言った。タクシーから降りて学院に入ったばかりだった。彼女がグレッグを睨んでいる姿から状況は一瞬で察することができた。彼女は、雅夫を見つめながらとても嬉しそうだ。雅夫は、確信が持てた。彼女が「好きな人」とは・・・
「この男か。中国人か?」
と雅夫にグレッグが訊く。
「日本人だ。あんたと同じで彼女の生徒だったんだ」
「何だって、日本人だと。君たちが一番嫌う国の人間じゃないか」
とグレッグ。荒げた口調で言った。
「国なんて関係ない。大事なのは二人の心だ」
 雅夫は、目を輝かせ信念を持って言った。雅夫と共に紅玲の目も輝いている。
「グレッグ、分かったでしょう。だから、出ていって」
 紅玲は、得意気な表情でグレッグを見つめ言った。
 グレッグは圧倒されたのか、雅夫を数秒間見つめると、何も言わず、その場を立ち去った。
 雅夫と紅玲は、二人だけで廊下に立ちすくみ、しばらく見つめ合う。
「雅夫、帰国はとりやめたんでしょう。授業を始めるわよ」
「ああ、喜んで。すまない。何も言わず取り消してしまって」
「いいのよ。そのおかげで、私も吹っ切れた。そして、自分が何を感じているのかがはっきり分かったもの」
「今日は何の授業をするんだい?」
「我喜歓・・の使い方を習いましょう」
 紅玲は、雅夫の手を取り、教室へと導いていった。

終わり

この作品は筆者の体験を元にしていますが、フィクションであることには変わりありません。登場人物、場所などは実在のものとは関係ありません。

次作はタイムスリップ・ファンタジー「インペリアル・ホテル」です。お楽しみに。

この小説の著作権は、このブログの管理者、海形将志に帰属します。盗作しないでくださいね。許可なく転載することも禁じます。
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テーマ:自作恋愛連載小説 - ジャンル:小説・文学

北京の恋 | 20:53:23 | Trackback(0) | Comments(0)
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