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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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インペリアル・ホテル 第9章 祖父と風呂に入る
タイムスリップ・ファンタジー、真実の愛を求めて現代から大正時代へ。

まずは序章から第8章をお読み下さい。


 十分後、祖父と孫は、桐の浴槽に一緒に浸かっていた。ゆったりとした浴槽で桐の匂いがぷんとして、実に気持ちいい。外の窓からは、薪火の煙が上がっているのが見える。敬介は、祖父とこんな形で風呂を共にできることが奇妙であると同時に、何だかとても嬉しかった。祖父は、身長百七十センチの自分より少し小柄で、当時としては、平均より少し背が高いといった感じといえる。痩せ形で短足だ。
「敬太郎君、君は将来、父さんの跡を継いで物理学者になるつもりなのかい」
「はい、そのつもりです」
と敬太郎ははっきりと答える。
「本当に君が望んでいることなのかな?」
と敬介はちゃかすつもりで訊いた。この時代といえば、家督を継ぐことは美徳で、それに反することはとても不道徳なことと考えられている時代だ。もしかして本心ではないのではと好奇心が沸いた。
「もちろんです。僕は父を尊敬しています。父やアインシュタイン博士のようになるのが将来の目標です」
ときっぱりと言い切る。
「ほう、そうか」
と敬介は言い、その言い切り方に本人の強い意志を感じた。ならば、もう一つ訊きたいことがあった。
「小夜子さんという女性とは、もしかして君の恋人かな」
「とんでもない」
と敬太郎は、湯船から立ち上がって興奮した形相だ。座っている敬介の目の前に祖父のペニスがある。
 敬太郎は、浴槽から体を出した。
「小夜子さん、いや朝倉様とは、そんなふしだらな関係ではありません」
 照れているような怒っているような顔をしている。表情から、間違いなく恋していることがうかがわれる。
「ああ、悪かった。そうだな、婚礼前の華族令嬢とうつつを抜かすことなど絶対に許されないことだよな」
「当然ですよ」
「そうか、でも、もう会えなくなるのは寂しいんだろう」
「あくまで、それは仕事のお手伝いをしていただけで、変な気持ちなどありません」
「しかしすごいな、女性記者とはこの時代においてはばりばりのキャリアウーマンということか」
と敬介は、思わぬ言葉を使ってしまった。「ばりばりのキャリアウーマン」なんて言葉、理解できるはずがない。
「それって、「新しい女性」という意味ですか、ドイツ語か英語で」
と敬太郎が興味津々に訊く。
「ああ、まあ、そんなとこ」
と敬介は、苦し紛れにそう答えた。あんまり突っ込まれるとまずいと思った。
「新しい女性か、働く女性ね。働く女性は美しいよね」
と敬介は、白々しく言った。
「そうなんです。小夜子さんは、とっても美しくて、まるで輝く太陽のようなんです」
「輝く太陽?」
 敬太郎の表情は、何かに取り憑かれたように真剣そのものになっていた。これはかなり入れ込んでいる。
「しかし、その輝く太陽も、嫁入りするんだよな。良家のお嬢様なんだし、筆を捨てて立派な良妻賢母になっていくんだろう」
「女性が働いてはどうしていけないのでしょう、そんな考えおかしいとは思いませんか」
と敬太郎が思わぬ言葉を発して敬介は驚いた。若いといえども、彼は大正時代の男子だ。それが、そんなことを言い出すとは。
「君は、女性の自立とかに賛成なのか」
「小夜子さんは、一生懸命でした。雑誌の仕事に、それを奪うというのは残酷です。手伝っていたことも、中途半端になってしまいます」
「ほう、手伝っていたことって、雑誌の記事を書くこと?」
「特集記事の調べもので。以前は、物理学のことでした。今回は、建築に関することで」
建築?」
「何でも、未来の建築はどうなっていくのかと。地震の多い日本にも、ニューヨークのような高い建物を建てることはできるのとか、そんなことです」
「へえ、でも、君は建築のことは分かるのかね」
「ええ、だから、いろいろと調べものをして、建築家から話しを聞いたり、小夜子さんは昨年、フランク・ロイド・ライト氏と会ったこともあるとか。その後も手紙を出しあったりしているらしくて」
「へえ、そうなんだ。あの帝国ホテルの設計士として有名だよね」
「その帝国ホテルで明日会う約束だったのです」
「ホテルに?」
と敬介は思わぬ展開に驚いた。会うのは、九月一日だ。明日ではないはず。
「来月開館する新館を支配人の方に案内して貰えるのです。小夜子さんは経営者の御一族と親交があって、特別に出来たばかりの建物の中を見せて貰えるので」
「そりゃあ、またとない機会だよな」
「そうだ。敬介さんは建築の仕事をやっているのでしょう。どうです? 僕の代わりに敬介さんが行ってみては?」
「え、俺が?」
「建築の専門の方が一緒なら、話しが弾むはず、いい記事が書けるはずだ。何と言っても小夜子さんが記者として手がける最後の仕事になるのだから喜ぶはずです」
 敬太郎は、実に嬉しそうに言う。敬介は思った。その小夜子とやらいう女性の顔を拝んでみたい。せっかくの機会だ。

第10章へつづく。
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テーマ:SF(少し不思議)自作小説 - ジャンル:小説・文学

帝国ホテル | 21:21:03 | Trackback(0) | Comments(0)
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