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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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人生教訓小説 「夢は叶わない」 第2章
まずは第1章をお読みください。

数日後、朝早くに、とてもうるさい音で目を覚まさせられた。起きたといっても、意識がもうろうとした状態だ。何の音かと思うと、下の廊下で誰かがドアをどんどん叩く音。ミクの部屋のドアではない。真下のロックスター志望、マサルの部屋のドアだ。大屋が家賃を催促に来たのだろうか。しかし、大屋は、こんな風にドアをどんどん叩いたりしない。鍵を持っているので、勝手に開けて中に入るのだ。

ミクは、気になって廊下に出て下の階へ降りると、黒い服を着た怪しそうな禿頭の男が立っていた。やはり大屋ではなかった。目が合うとミクは、怖くなった。ヤクザなのだろうか。

「おい、あんた、マサルを探しているんかい?」
とマサルの部屋の隣に住む作家志望、スグルと呼ばれている中年男がドアを開け、やくざ風の男に話しかける。
「ああ、そうだが、この部屋の主は留守なのか」
と男はどぎつい声で反応する。
「ああ、留守だよ。昨夜、出ていったきり帰ってこないけどな。何でも数日間、留守にするって聞いたけど。とにかく、部屋の中にはいないから、どんどん叩いても誰も出てきやしねえよ」
とスグルは淡々と言った。
ヤクザ風の男は、それを聞くと何も言わず、アパートを去った。

「おい、詣でてきてもいいぞ、マサル」とスグルは言った。すると、マサルがスグルの部屋から出てきた。どうやら隠れていたらしい。
「まったく、窓から伝って俺の部屋に入って来やがって」とスグルがマサルをなじるように言う。
「すんません、俺、最近、借金取りに追われ放しで」とマサル。
「何だと、何に借金したんだ。エレキとか、趣味の悪い衣装にか」とスグル。
「どうしても、デビューしたくて自費でCDを制作したんだ。だけど、どこに持っていっても、断られて」とマサル。そして、マサルは、泣きそうな表情のまま、アパートを出ていった。

「まあ、これであいつも諦めるだろうな、ロックなんてふざけたことにうつつを抜かしたなれの果てというものだ」
スグルとミクは、近くの食堂で一緒に炒飯を食っていた。すでに午前11時を過ぎていたので一緒にお昼ご飯を食べることにしたのだ。
「スグルさんは、諦めないのですか、あなたもずっと作家を目指し続けて、まだ、何も成果を上げてないのでしょう」
ミクは、皮肉を込めて訊いた。マサルは嫌いだが、マサルに関して、この作家志望中年男が批判するのは理にかなわないと思ったからだ。






「何をぬかす、俺は、あのロック野郎と一緒にするな。俺は20年間、ひたすら真剣に純文学を書き続けてきたのだぞ。それもずっとそればかりに専念してきた。中途半端にバイトなどやりながらとは違う。文学というのは全身全霊でのぞまなければいかんのだ。分かるか。お前らのように遊び半分なものとは違うのだ。だからこそ、身を挺する意味で、ひたすら俺は書くことに専念しておるんだ。かつて筆を執り始めた時は同志がおったが、そいつは途中でやめ、こともあろうかサラリーマンになった。リーマンやりながら暇を見つけ書き続けることにしたらしいが、そんなのふじゅんだし、絶対に失敗する」
ミクは、スグルの言葉にむかっときたが、聞き流すのが一番だと思った。いつものことだ。この人は、20年間も、こんなことを言い続けているのだ。バイトしながらの自分やマサルをバカにしているようだが、40も過ぎて、親戚の大屋にただで部屋を借り、生活費まで支給してもらっていてこそ、書くことに専念出来ているくせに身の程しらずもいいところだ。
「リーマンになった裏切りものはどうしているかな、名前は海形っていったな。どうせ仕事しながらなんて続かず、書くこと忘れてあくせく働いているのだろう。それに比べ、俺はどんどんいい作品が生まれている。あともう少しで芥川賞だ」
と自信満々の表情を見せる。呆れてものが言えない。
「さて、本年度の芥川賞受賞者が発表されました」
噂をすればというか、食堂に置かれたテレビから丁度いいニュースが流れてきた。スグルとミクは、さっとテレビの方に顔を向けた。
「本年度の受賞者は、小説「まったりな生き方」を書いた海形マサシさんです。海形さんは、サラリーマンをしながら小説を書き続け、自らの生き方を投影した主人公を物語とした小説を書き上げました。現実を見据えながら、夢は夢として追い続ける主人公の生き方は海形さん、そのものだといえます」
アナウンサーの喋る場面から、授賞式の壇上で花束を受け取りながら、スピーチをする海形氏の姿に映像は変わった。
「この20年間、ずっと小説家になることを夢見て書き続けてきました。当初は、書くことだけに専念していましたが、やはり現実的になり普通のサラリーマンとなり生きていくことに決めました。でも、かえってその方がよかったのです。小説を書くインスピレーションやネタにする経験は、社会に出てもまれながれでないと得ることが出来ません。サラリーマンやりながらで本当に良かったです。むしろ、かえって、夢を実現させることができたというものです」
ミクは、スピーチを聴きながら、顔が凍っていくスグルの姿を目の当たりにした。そして、スグルは「ちくしょう、何であいつが」という言葉を口にしたかと思うと、立ち上がり、走って食堂を出ていった。

はは、つまりはサラリーマン、やりながらの元同志にしてやられたということか。彼もマサルと大して変わらないじゃないか。

ミクは炒飯を食べ終わり、食堂を出ようとしたが、店の人にスグルの分も代金を払えと言われてしまった。テーブルには、スグルのちょぴっと食べ残された炒飯がミクが平らげ空っぽになった皿の横に置かれている。もしかして、自分に払わせるために出ていったのでは。ふざけんな。だが、ここは立て替えよう。あとでしっかり返して貰う。

その時、ミクの携帯発信音が鳴った。ミクは電話を取った。
「もしもし、あら、今野さん」
と公園で会った画家の中年女性だった。
「どうしたんですか」
「この前言った通り、あなたのダンスする姿をモチーフにした絵の展覧会を開いてね。それが大盛況なの。是非とも、モデルになったあなたにも来て貰いたいの。どう、私の画廊に来てみない」
今野の声は、実にはしゃいだ感じで、ミクも何となく嬉しそうなことが起こりそうではしゃいだ気持ちになった。
「ええ、行きます」
「じゃあ、タクシーで来て。着いたら私が代金を払って上げるから。今野画廊までよ」
ミクは、食堂を出たところの道で通りかかったタクシーに手を挙げ乗り込んだ。

第3章へ続く。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

軽小説 | 00:35:01 | Trackback(0) | Comments(0)
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