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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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インペリアル・ホテル 第11章 婚約者に出会う
タイムスリップ・ファンタジー、真実の愛を求めて現代から大正時代へ。

まずは序章から第10章をお読み下さい。


 ああ、あの平塚雷鳥かと敬介は思い出した。
「ああ聞いたことあります。中学の頃、歴史の時間で習ったことが・・」
 あ、しまったと敬介は思った。歴史の時間、大正デモクラシーを習った時に、その婦人運動家であった平塚雷鳥が創刊した婦人運動雑誌「青鞜」の発刊宣言文の冒頭に書かれた有名な言葉だ。だが、今はその大正時代だ。
「歴史の時間ですって」
と小夜子が不思議そうな顔をすると
「いえ、勘違いで、最近、有名な方ですよね。確か婦人運動で」
「ええ、そうですわ。まさに新しい女性を目指している方で、男女の新しい生き方を模索していらっしゃる方ですわ。男の方と共同生活を送られていて、お子さまもいるのだけど、互いに籍に入っていないんですって、今の結婚制度は男女が対等に生きるためのものになっていないからだと」
 へえ、平塚雷鳥って、この時代に事実婚をしていたのか。学校でさらりと習った程度で詳しくは知らなかったが、さすがは日本のフェミニズムの大家だけはある。
「結婚すれば妻は夫のもの、いえ、夫の家のものになる。それでどうして男女がお互いを尊重しあえるのかって仰っていますわ」
「お会いしたことがあるのですか」
「ええ、昨年、法律の改正で女性も政治集会に参加できるように改正になった際に、私が雑誌のインタビューをするために、先生は意気込んでいましたわ。次は投票権だって」
「確かアメリカやドイツでは婦人参政権が認められている時代ですよね。日本も追いつけということですか」
と敬介。歴史の教科書でそう書かれていたのを思い出して言った。
「ええ、でも、平塚先生は、この運動は西洋かぶれな運動ではないと仰られておられましたわ。これは日本女性の本来の姿に立ち戻る運動だって。だから、「元始女性は太陽であった」という言葉を思いついたんですのよ。平塚先生が言いたかったのは、何も新しい考え方を採り入れるわけではない。かつては天テラス、つまり太陽神として崇められた私たち女性が、光を失い、月のように他の光でしか輝けなくなったのを、再び元のように自ら光る太陽へと返り咲こうという意味です」
と生き生きとした表情で小夜子嬢は言う。とても輝いている。なるほど、こんな考えの女性なら家同士で決めた結婚に縛られるより駆け落ちでもしたくなるものだろう。
「私思うんです。平塚先生も仰っていたことなのですけど、男尊女卑は、女性だけでなく男性にとっても損なことではないかと、個々の持った本来の性質を削いでしまう男女ともに不利益を被ってしまう考え方ではないかと」
 彼女の顔が、急に堅く重苦しくなった。やはり直面する現実は重すぎるということか。理想は所詮は理想でしかない。敬介は、ふと切ない気持ちになった。当時の女性は、敬介の生きていた時代では当たり前だとされていた自由が、かなり制約されていた。保守的な方の敬介でも、女性に選挙権がないことなどとてもいびつに思える。それに、親同士が決めた結婚を拒否することができない制度など、女性のみならず男性にとっても、嫌な制度だ。
「小夜子さん、偶然ですね、こんなところで会うなんて」



と目の前にネクタイをした若く背の高い男性がにこにこしながら現れた。その横に蝶ネクタイをしたホテルの支配人らしき中年男性がいた。支配人らしき男性は、震災で大正時代のライト館に来た後、最初に出会った男性だ。自分を新聞記者か映画関係の人間かと勘違いした者だった。
「西園寺様、貴方もどうしてここに」
「いや、開館前の新館をしっかり見ておこうと思ってね。落成式に僕たちは呼ばれているが、その後ではゆっくり見る時間もないと思ってね。こちらは支配人の犬山さんだ」
「ごきげんうるわしゅうございます」
と支配人が深く会釈する。敬介は、何とか目が合わないようにした。前に会ったことがあると気付かれるとまずい。できれば何も言わず、この場を退散しないと、と考えた。
「で、この方はどなたかな」
と西園寺という男が小夜子に訊く。
「この方は松原博士の甥にあたる方で建築家の松原敬介様。私の雑誌の取材を手伝って下さっているの」
「は、はい、はじめまして、松原です」
と腰を低くして支配人と視線が合わないようにした。
「ほう、すると、私の許嫁の婦人運動について?」
「何を仰っているの、西園寺様、建築のことに関してですわ」
と小夜子嬢は、男に微笑みながら、そう言い返した。婚約者の男、西園寺というのか、見立ては貴族の紳士というにふさわしい見栄えだ。背が高く顔立ちもいい。二人が並んで立っているのを見ると実にお似合いだ。身分だけでなく容姿もも釣り合っているということか。
 小夜子嬢にとっては、親同士が決めた結婚、さぞ嫌な男に違いない。映画「タイタニック」を思い出す。好きでもない男との結婚を強要される主人公の若い女性。男に機嫌を取りながらも、何とか距離を取ろうとする態度が、その時代の世相を反映している。主人公の女性は、タイタニック号沈没により自らが死亡したと見せかけ別人となり、自由の身になるのだ。
「小夜子様、これから新館開業について私とお話を交えるというお約束でしたが、どういたしましょう。西園寺様もご一緒されては、また、こちらの建築家の方もご一緒されては、建築についてのお話ならご興味がお有りでしょうし」
と支配人が言い始めると、敬介は、しまったと思い
「いえ、私は、おいとまさせていただけませんでしょうか。ちょっと用事を思い出しまして」
「あらそうなんですの」
と小夜子嬢の残念そうな言葉。というか不審がられているような気がした。わざわざ帝国ホテルまで来たのに、突然、帰りたいなどというのは変に思われてしまったのだろう。
「では、そうですね。続きはまたの機会に」
と敬介はごまかすように言った。
「小夜子さん、明日、遠乗りに来てくれませんか。あなたにプレゼントしたい馬がある」
と西園寺が小夜子を見つめ語りかけた。小夜子は、やや困った顔をした。
「ありがとうございます。ですけど、ねえ、敬介さん、明日、インタビューの続きをしていただけますよね。今日は中途半端だわ」
と小夜子が敬介に言う。敬介は、はっとした。彼女は、自分に助けを求めているのではないか、この西園寺と一緒にできるだけいたくないので、自分と仕事をすることを断る口実にしたいのでは。
「そうか、残念だ。でも、いつでも新しい馬を紹介できる。今は、君にとってとても大切な時だよね。最後に仕上げないといけない仕事だということは分かっている。構わないよ。とことんやり給え」
と西園寺、優しそうに言う。小夜子の表情がなぜか、すまなそうになった。普通なら、ほっとした表情になるのだが。まあ、無理もないか、この時代は女性は夫を立てないといけないという規範意識があるのだから。
 小夜子は、敬介を見つめ言った。
「敬介さん、よろしければ、あなたもいかがかしら。遠乗りにおいでにならない」
と小夜子が言った。
「おい、無理しなくてもいいよ。わざわざこの方を遠乗りに誘ってまで」
と西園寺が言うと、敬介は
「いやあ、遠乗りやりたいな。実をいうと、私は大の馬好きで、乗馬もよくやるんです。もし誘っていただけるのでしたら光栄です」
と割り込むように言った。
 これで丁度いいのではないか、それに敬介自身、この小夜子という女性とより長くいたかった。今しか時がないのだから、美しく清楚でありながら、太陽のように自ら輝ける女性を拝めるのは。

第12章へつづく。
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テーマ:ファンタジー小説 - ジャンル:小説・文学

帝国ホテル | 21:55:03 | Trackback(0) | Comments(0)
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