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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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インペリアル・ホテル 第12章 馬に乗りながら西園寺と話す
タイムスリップ・ファンタジー、真実の愛を求めて現代から大正時代へ。

まずは序章から第11章をお読み下さい。


 翌日、クラシックカーで朝倉家から松原邸に出迎えが来た。クラシックカーというが、この時代では最新で且つ高級な乗り物だ。乗り心地は決していいとはいえない。二十一世紀の自動車と違い、がたがたと揺れやすい感じがする。道のせいもあるのだろう。当時は、今ほど隅々まで道路が舗装されていないのだ。
 三十分後、自動車は世田谷の乗馬クラブに着いた。敬介の時代より速く着いたなと思ったが、それもそのはず、道路を走る自動車の数が、断然少なく、渋滞も信号も全くなく辿り着いたのだ。世田谷も、二十一世紀の時代と比べ実に閑散としている。
 「世田谷乗馬倶楽部」と立て看板のかけられた建物の中に入る。
「松原さん、ごきげんよう」
と男の挨拶をする声が、西園寺だ。西園寺文隆、名門西園寺公爵の嫡男だ。ちなみに朝倉小夜子嬢は、同じく名門の華族だが子爵家だ。公・侯・伯・子・男という序列だから、貴族社会の中では、いわば玉の輿の結婚といえる。
 西園寺は、すでに乗馬服に着替えていた。そして、敬介はこれから更衣室に行き着替える。愛知県から東京に来たばかりで、乗馬服がないと伝えると、乗馬倶楽部から服を借りればいいと薦められていた。
 更衣室には、敬介用に貸し出す乗馬服が用意されていた。さっそく着替えた。サイズもピッタリだった。紺のジャケットに茶色のキュロットだ。
 更衣室を出ると、西園寺が小夜子嬢と一緒に話しをしながらロビーのソファに座っていた。二人ともにこにこしながら会話を交わしている。
 敬介が来たことに気付くと、二人は立ち上がった。小夜子が「ごきげんよう」と挨拶をした。彼女は、赤いジャケットに白いキュロットズボンを履いている。西園寺と並んだ姿を見ると、何ともお似合いのカップルだ。
 さっそく乗馬をすることに。西園寺は、彼女に黒い気だてのいいアラブ馬を見せ、これが彼女のものだと言った。小夜子は、喜びの表情を見せた。敬介は倶楽部所有の馬をあてがわれた。
 三人を乗せた三頭の馬は、倶楽部ハウスの厩舎から、野原へと走った。この辺は、二十一世紀では住宅地だが、まだ、この当時は、田圃や野原が広がる郊外の田園地帯だったようだ。
 先頭を走る馬には、小夜子嬢が乗っている。手綱さばきは抜群だ。さすが、生まれた頃から乗りこなしていることを分からせてくれる。
 しばらくしていると、小夜子嬢の馬が、五十メートルも前を走っている状態に。彼女は何も気付かない様子だ。まあ、その程度離れることはたいしたことではない。敬介は、西園寺と平行に並んで走っていた。今、この男とじっくり話せるチャンスだと思った。


「西園寺さん、実に気持ちいいですね。乗馬には最高の場所です」
と会話を切り出した。西園寺は、敬介の方を振り向き
「それはどうも。この一帯は、僕の一家の土地なんだ。乗馬倶楽部も僕の一族が経営している」
と平然な口調で言った。
「ほう、そうですか」
とやや驚きながらも、敬介は返した。自慢話をされたようで、嫌な気分になった。タイタニックで悪役であった主人公の女性の婚約者を思い出す。自分は、ディカプリオ演じる貧乏青年の役になった気分で何とも気まずい感覚を覚えた。
「結婚された後も、ご夫婦で乗馬されるのでしょうね」
と敬介が切り出す。
「いや、それはどうか。実を言うと、僕の両親が、それを嫌がっているのです。女性が乗馬するなんてはしたないと。純粋な大和撫子になることを望んでいるのです。小夜子さんのような活発な生き方を好まないもので」
と表情が急に硬くなった。
「そうなんですか、それは小夜子さんにとっては残念ですね。あんなに馬に乗るのがうまいのに」
「彼女は何もかも自由を奪われた身になるのです。僕の妻になるということはそういうことを意味します」
と突然、意外な言葉を西園寺は発した。
「でも、あなたのようなご身分の人の奥様になれるのですから、きっと誉れ高きことでしょう」
と敬介は当時の基準に合わせた言葉を返した。
「華族なんて身分は、荒唐無稽なものですよ。こんなことをあなたに言うのは変ですが、本来、結婚とは男が女を幸せにするものなのに、僕の場合は彼女を不幸にしかさせられない」
と西園寺は言いながら、急に馬の足を遅め、その場で止まらせた。並んで走っていた敬介の馬も同じように足を遅めた。しばらくして、のっぱらで二頭は止まった。
「西園寺さん、あなたは彼女と結婚したくないのですか」
と敬介は思いきってきいた。というのも、西園寺がそんなことを訊かれたがっているように思えたからだ。
「僕は小夜子さんを愛しています。だが、彼女は僕の妻になることを望んでいない」
 西園寺は、とても深刻に悩んでいるような表情を見せる。おい、一体どういうことだ。本来、男、それも当時の貴族の男なら、そんなこと気にもしないだろう。
 すると、馬の駆ける音が聞こえてきた。小夜子嬢の乗った馬だ。行き過ぎて、戻ってきたのだ。
「どうしたの二人とも、私がはしゃぎ過ぎたのかしら」
 小夜子ははつらつとした表情をしている。落ち込んだ表情をした西園寺を見つめている。彼女の表情が呼応するように悲しさを見せた。
何なんだ、この二人。
 彼女は、この男と望まれない結婚をする身だが、それにしては、当初、二人でいる時から思ったのだが、決して嫌々という感じではない。この男が、彼女の生き方を理解していることを知ったからか。だが、彼女は、この男との結婚は望んでいない。この時代、貴族の夫人になることは、自らの理想である「新しい女性」としての生き方を否定することを意味するからだ。
 うーん、二人は微妙な仲と言うことか。だが、哀れにも、彼女はあと二日でこの世を去ることになる。西園寺にとっては、さらにつらい思いをすることになるのだ。もっとも、敬介には貴族の婚姻など関係ないことか。いや、そうではない。小夜子嬢を見ながら、敬介は気付いた。そうではない。これは敬介にも大いに関係あることだ。
 敬介も、小夜子のことが気掛かりなのだ。彼女に惚れてしまっている。

第13章へつづく
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テーマ:戦前近代史小説 - ジャンル:小説・文学

帝国ホテル | 16:54:23 | Trackback(0) | Comments(0)
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