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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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インペリアル・ホテル 第13章 小夜子嬢を未来に誘う
タイムスリップ・ファンタジー、真実の愛を求めて現代から大正時代へ。

まずは序章から第12章をお読み下さい。


 翌日、敬介は小夜子嬢一家の邸宅にいた。その日は、明日の結納準備で大忙しの中であったが、小夜子嬢は、どうしても最後の仕事を仕上げたいということで、二人きりで応接室にいる時間を作ってくれた。遠乗りの後、乗馬倶楽部で話しをする予定だったが、西園寺の前では出来ない話をしたかった。なので、遠乗りの後、建築についての話しをするつもりであったのを、またもや「用事があるので失礼」と言うと、小夜子が「ならば明日、私の家にいらっしゃっていただけません。その方がゆっくりと話しができますわ」と返したので、それにうまいこと乗る形で二人きりになるチャンスを獲得した。
 小夜子嬢の住む朝倉邸は渋谷にあった。千坪以上はある敷地に建つ豪華な洋館だった。彼女の一家、朝倉家は、当主の朝倉子爵を筆頭にした華族一家だ。同じく華族の西園寺家と結ばれるというのは、当時としてはありふれたこと。特に西園寺家は華族の中でも超名門として知られているので、ある意味、玉の輿でもあるそうな。
 小夜子嬢は、ソファに座りノートと万年筆を持っていた。今日中に原稿を仕上げて、この日を最後の活動日にするという。女性記者としての最後の仕事に渾身でのぞんでいる。だが、明日には、この世からいなくなってしまう。結納の前に祖父と駆け落ちを企んでいるようだが、それもかなわず、行方知れずとなり、死んでしまうことに。いや、正式に死亡が確認されたわけではない。記録上、行方不明とある。ということは、もしかして、死なず別の世界へ移ったのかもしれない。そして、その「別の世界」へ敬介が連れ出せるかもしれない。敬介は是非とも、そうしたいと考えている。
 時間は一時間程度しかない。ならば、すぐにでも切り出して伝えないと。
「敬介さん、それではさっそく話しをしたいのですけど、改めてこの場でインタビューとして聞きます。未来の建築というものはどんなものになると思われますか。例えば、この帝都にも摩天楼のようなとても高いビルが林立するような光景が見られるのでしょうか」
 敬介は、これはしめたと思った。
「ええ、もちろん、確実ですよ。そうなるということの証拠を見せてやりましょう」
と敬介はポケットから携帯電話を取り出した。小夜子は、何なのか不思議そうに見つめる。敬介は携帯電話の画面をさっと目の前に見せ、画面上に動画を流した。




「これは何ですの?」
 画面にくり出す動画に目を丸くしている。この反応は無理もない。
「これは未来の帝都の様子です。よくご存知の場所の未来の光景です」
 小夜子は、携帯電話という小さな端末にカラーの動画が映し出されているということ以上に撮影された場所に覚えがあることに驚き始めた。
「これは宮城ですの?」
 宮城、つまり皇居だ。
「はい、そうです」
 敬介が携帯のメモリーから選んだ画像は、皇居の内苑通りから二重橋へ向けて歩き、宮内庁建物の見える坂下門、ビジネス街の高層ビルが間近に迫る和田倉橋の様子だ。
 今の携帯電話を買った直後に最初に撮った動画だ。以前と違い、動画機能が内蔵されているというので、さっそくということで撮影に乗り出したのだ。携帯電話を買った店が、皇居の近くであったため、格好の被写体にさせて貰った。
 松原博士には、新宿の超高層ビル街が眺められる元婚約者のマンションからの風景だったが、小夜子嬢にはもっと分かりやすいものが必要だと思った。
 この時代も、その八十五年後の敬介がいた時代とも大差なく比較対照のできる場所といえば、皇居がもってこいだ。皇居はそんなに変わってはいない、だが、周辺は大きく変わっている。高層ビルだ。丸の内ビジネス街の高層ビル群を見れば、これが大正の帝都、東京で撮られたものだとは考えにくい。
「信じられませんわ。こんな小さなもので活動写真が見られるなんて」
と小夜子は、当たり前のように携帯の動画に驚く。もっとも、これが携帯電話であることなどを説明しても意味がないと思ったので、敬介は、こう切り出した。
「これは僕の時代のコンパクトなカメラであり、映写機なのです」
と自信あり気に語り、
「そうだ、何なら今、あなたを撮りましょう」
と敬介は、携帯のカメラレンズを小夜子に向けた。まずは、カシャリという音がして、小夜子の顔写真が画面に写る。それを小夜子に見せる。カラーの画面に小夜子の美しい顔が見事に写し出されている。小夜子が、しばらくそれを目を凝らして見た後に、今度は動画機能を使い、携帯を窓の近くに持っていき、庭の様子を撮す、そして、一分ほど、その情景を撮した後に、今度はそれをソファに座った小夜子の方に持っていく。
 動画を再生する。またもや、驚きだ。
「信じられません。今の時代にこんなものあり得るはずございませんわ。誰がこれを発明したのです。大ニュースですわ」
と小夜子が言うと
「さっきも言ったでしょう。これは未来から持ってきたのです。僕の時代、2008年には普通に誰もが持ち歩いているものです」
と敬介は、堂々と返す。
「二〇〇八年? それって二十一世紀、敬介さんはその時代からこれを持ってきたとおっしゃるのですか」
「そうです。にわかには信じられないでしょうが。わけあって、未来からこの時代にやって来ました。あなたを救いにね」
「私を?」
「そうです。はっきり申し上げます。あなたが、この時代で生き続けては不幸になるばかりです。ご存知のように男尊女卑は変わりません。女性の参政権を獲得するには、あと二十年以上待たなければいけません。それも、その間に過酷な大不況と戦争を体験させられます。その戦争でこの大日本帝国は壊滅的な打撃を受け、負けてしまうのです。その後に、婦人参政権が認められますが、真の意味での男女平等が実現するのは、それより数十年の年月を要します。それまで待てますか? というか、それまでにあなたは無事に生きていられるでしょうか。折角の志を捨てて、周囲の薦めるままの生き方を選び、自らを押し殺してまで生き続けられるのか、それもどんどん過酷になっていく状況の中で。そんなあなたを救うために私は未来からやって来たのです」
 驚くこと立て続けで小夜子は、体が固まってしまっている。落ち着かせようと、敬介は黙り、数分ほど、両者の間に沈黙が続いた。
 小夜子は落ち着いた表情に戻り敬介に向かって話した。
「いったい私にどうしろと? あなたが二十一世紀から来た人だなんて、この小さな映写機を見せられても、まだ信じられません。でも、私を救いに来たと仰るのでしたら何ができるのか教えてくださいますか」
 敬介は、「よし」と思い言った。
「信じられないのは分かります。ただ、することは簡単です。明日ですが、帝国ホテルに行かれますよね。確か落成式は午後一時だとか。十二時半にはホテルに到着予定で、明日は落成式の後にホテルで結納の儀をされるんですよね」
「ええ、そうですわ」
「その予定なのですが、何とかあなただけでホテルに早めに来ていただけますか。正午前ぐらいに」
「正午前ぐらい?」
と小夜子の表情が、怪しげに変わった。そのはずだ。その時間に祖父と駆け落ちで顔を合わせる約束をしているのだから。それは祖父との間の秘密なのだろう。となると、祖父のために敬介からの申し出を断るか。
「あなたは、私が自由に生きられる世界に連れて行ってくださると仰るのですか。その二十一世紀の世界?」
「そうですとも」
と敬介。誇らしげに言う。
「訳が分かりませんわ。あなたは敬太郎さんの従兄であられる方なのでしょう。どうして二十一世紀から来られたのですか」
 もっともな質問だと敬介は思った。
「実をいうと、敬太郎は僕の祖父なのです。そして、祖父の残した日記を読んで、あなたのことを知り、この世界にやって来ました。あなたは明日、祖父と駆け落ちをする予定ですよね」
 小夜子の表情が凍り付くように変わった。もの凄い衝撃を受けたようだ。敬介が知る由もないこと。小夜子と敬太郎以外は知るはずもない約束を他人が、それも駆け落ちというとんでもない大罪になるようなことを知られてしまったという衝撃と羞恥心を感じている表情だ。
「これは、敬太郎から聞いた話しではありません。祖父は人に対してそんなことを話す男ではないのです。あなたのことを真剣に考えています。そして、日記では駆け落ちを約束しておきながらも、駆け落ちは実現しなかったと書かれています」
「何ですって、どういこと?」
と小夜子はソファから立ち上がった。
「実をいうと、明日、帝国ホテルのある場所で時空の扉が開かれます。実をいうと私は数日前、その場所からこの世界にやって来たのです。僕の使命はあなたをその時空の扉に引き込み、この世界から連れ去るということなのです」
 敬介は、地震のことは口に出さなかった。そんなことを言えば、彼女は周囲の人々のことを心配するだろう。しかし、そんなことに構っていては、彼女を救い出すことはできない。
「私は正午前にあなたと帝国ホテルで会ってどうすればいいのでしょうか」
と小夜子は納得したような表情になり言った。
「ロビーで落ち会いましょう。その後に時空の扉が開くところにお連れします。正午、そうですね。五分前ぐらいで結構です。すぐにお連れできます」
「いいですわ。まだ、信じられませんけど、どうせ帝国ホテルには行く予定ですから、本当にその「時空の扉」というものがあるのか確かめてみたいですし、そんなお話がデタラメというのでしたら、私なりにホテルですべきことがあるので、好きにさせていただきます」
と小夜子嬢は答えた。敬介は満足であった。

 面会の後、朝倉邸から出て、歩いて渋谷駅に向かった。車で送り返して貰えると言われたが丁寧に断った。折角だから歩いて、大正時代の東京を眺めたいと思ったのだ。
 渋谷といっても、この時代はそんなに開けていない場所だ。郊外の住宅地といったところか。二十一世紀のようなファッション街を思わせる光景は全く見当たらない。そして、完全に姿を消して二十一世紀には見られなくなってしまったものが、この時代の渋谷に見られた。
 渋谷川だ。丁度、宮下公園と山手線のある位置に着いた。渋谷川といえば、「春の小川」の歌詞に登場する、かつては土手もあり、見ることの出来た河川だが、高度経済成長時代の開発で、二十世紀後半からは地下に埋もれて見ることが出来ない河川だ。鰌が泳いでいたと言われるが、果たしてと思い、敬介は土手に降りて流れる川の表面を見つめた。
 すると、鰌が、それもたくさん泳いでいる。ほお、何と運がいい。鰌が群れをなして泳ぐ姿を眺められるとはと感激したが、考えてみると、鰌がこんな行動をするのは通常は考えられない現象では。
 そうか、これは明日起こる大惨事の予兆なのだ。動物は本能で危機を察知することが出来ると聞く。大地震の前にはよく起こる現象だ。地表から漏れる熱や磁場の乱れる異常を、人間よりも早く感知できるからだ。
 まさに、明日は決行の日だ。

第14章へつづく。
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テーマ:仮想物語 - ジャンル:小説・文学

帝国ホテル | 21:39:38 | Trackback(0) | Comments(0)
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