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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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第39章 リベラルとは
テーマは、ジャーナリズム、民主主義、愛国心。歴史を振り返りながら考える。

まずは、まえがきから第38章までをお読みください。

一九三八年(昭和十三年)十一月三日
 近衛内閣により東亜新秩序声明が発表された。
「今や、陛下の御稜威に依り、帝国陸海軍は、克く広東、武漢三鎮を攻略して、支那の要城を勘定したり。国民政府は既に地方の一政権に過ぎず。然れども、同政府にして抗日容共政策を固執する限り、これが潰滅を見るまでは、帝国は断じて矛を収むることなし。帝国の冀求する所は、東亜永遠の安定を確保すべき新秩序の建設に在り。今次征戦究極の目的亦此に在す。
この新秩序の建設は日満支三国相携へ、政治、経済、文化等各般に亘り互助連環の関係を樹立するを以て根幹とし、東亜に於ける国際正義の確立、共同防共の達成、新文化の創造、経済結合の実現を期するにあり。是れ実に東亜を安定し、世界の進運に寄与する所以なり。
帝国が支那に望む所は、この東亜新秩序建設の任務を分担せんことに在り。帝国は支那国民が能く我が真意を理解し、以て帝国の協力に応へむことを期待す。固より国民政府と雖も従来の指導政策を一擲し、その人的構成を改替して更正の実を挙げ、新秩序の建設に来り参するに於ては敢て之を拒否するものにあらず。
帝国は列国も亦帝国の意図を正確に認識し、東亜の新情勢に適応すべきを信じて疑はず。就中、盟邦諸国従来の厚誼に対しては深くこれを多とするものなり。
惟ふに東亜に於ける新秩序の建設は、我が肇国の精神に淵源し、これを完成するは、現代日本国民に課せられたる光栄ある責務なり。帝国は必要なる国内諸般の改新を断行して、愈々国家総力の拡充を図り、万難を排して斯業の達成に邁進せざるべからず。
茲に政府は帝国不動の方針と決意とを声明す」
 つまりは、日本、中国、そして満州国の三国が政治・経済・文化での提携を深めて協調していくことにより国際正義を確立させ、東亜と呼ばれる東アジア地域の安定と発展を目指すという声明である。目指すは大東亜共栄圏の確立である。だが、どう見ても日本の一方的な主張である。その主張を通すために、さらに武力を行使し続け、無実の人々を殺戮していき国際正義を踏みにじっていくのは自明の理だからだ。
 官邸で龍一は、近衛総理に問いかけた。
「これでいいのですか。このままいけば、どんなことになっていくのか分かっているのですか」
 近衛総理は黙って何も答えてくれなかった。今後は、この東亜新秩序構想を基軸とした外交政策に邁進するしかなくなった。龍一は補佐官の地位に留まることにした。これ以上何もできないが、できる範囲ですべきことをしようと考えた。

一九三九年一月
 龍一は、近衛隆文氏が、秘書官を辞めたことを聞き、彼の家に駆けつけた。近衛一家の私邸である荻窪の荻外荘である。
 純和式の邸宅を訪ねると、たまたま隆文氏一人しか実家にはいなかった。
 縁台に立ち庭を見つめている文隆。外では雪が降っている。龍一は畳の上に正座していた。
「二等兵として従軍することになりました。行き先は満州です」
 龍一は衝撃を受けた。なぜだと訊こうとすると、
「父の命令です。軍部からかなり僕のことで批判されていて、何でもアメリカ帰りでリベラル過ぎる傾向があると」
と隆文は重い口振りで話した。
 龍一は言った。
「リベラルのどこが悪いんだ。軍部の奴らにどんな政治思想があるというのだ。奴らはリベラルでもなければ、保守でもないじゃないか。単なる精神主義者で、思いのままに行動することこそが善だと考えているに過ぎない。何の信念も戦略もない」
 かなり声を荒げた。隆文と自分以外は邸宅にいないことが幸いした。
「決心はついています。僕も近衛家の一員です。当然のことをするまでです」
 隆文はそう言い切った。しばらく沈黙が続き、隆文は龍一に問いかけた。
「リベラルって何なんでしょうね。果たして、そんな思想だけで世界を救えるのでしょうか」
 龍一は答えにつまった。今まで、自ら考えたことのなかった問いだったからだ。

第40章へつづく。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

白虹 | 15:26:28 | Trackback(0) | Comments(0)
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