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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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第40章 チャーリーの正体
テーマは、ジャーナリズム、民主主義、愛国心。歴史を振り返りながら考える。

まずは、まえがきから第39章までをお読みください。


一九三九年八月 

 東亜新秩序構想を声明として発表して以来、日米関係は、さらなる悪化の一途を辿っている。六月には日本軍が中国の北京近くにある租界、天津を抗日運動の拠点とみなして封鎖。そのことに対し、アメリカは日米通商航海条約の廃棄を通告してきた。それによりくず鉄、石油・工作機械などの輸入が制限されるようになった。
 日本経済に打撃を与えるのは必至だ。そんんなか、外務大臣から龍一に思わぬお呼び出しがかかった。
 それは、アメリカ大使館での日米政府関係者の親睦会としてテニス大会が開かれるので、そこで日本側の代表選手として出席して貰いたいとのことだった。
 外務省内にテニスの上手い者がなかなか見つからないため、急遽、官邸の龍一にお声がかかったということだ。何としても、負けられない試合だという。
 龍一は、快く引き受けた。最も、テニスには自信がある方ではない。子供の頃からやっていて、神戸の高校時代は庭球部員であったが、けっしてどんな対戦相手でも打ち負かせる程の自信があるわけではなかった。相手側もきっと凄腕を連れてくるだろう。だが、そんなことはどうでもいい。所詮は親睦会である。考えているのは、これを機会に大使館側と緊密な接触を持ち、今後の動向を探るきっかけとしたいのである。それは外務省も官邸も龍一に望むことであった。
 赤坂のアメリカ大使館の芝生にテニスコート一面が設置されていた。ジョゼフ・グルー大使が主催者となり、パーティーは始まった。ワインが配られ、屋外のテーブルにサンドイッチや菓子が並べられている。実に楽しい雰囲気がお膳立てされていた。
 龍一は、緊張していた。テニスをする格好に着替え、試合が始まるのを待っていた。対戦相手はどんな奴なのかと少し不安であった。負けるにしてもあまりひどい負け方をしては、この先付き合いがしづらくなるし、官邸や外務省の面子を潰すことになる。まあ、相手もお手柔らかにやってくれるのだろうが。
「レディーズ・アンド・ジェントルマン、お集まり下さい。只今より、本日最大のイベントであります米日政府代表によるテニス試合を開催します」
とグルー大使。その傍らには主賓の外務大臣が立っていた。
 招待客の注目が、芝生のテニスコートに集中する。皆、わくわくとした表情となった。 龍一は、白髪のグルー大使に近付く。右手にはラケットを持っている。
「君が、日本代表かね」
とグルー大使。
「初めまして、大使。官邸から来ました。総理補佐官のリュウイチ・シラカワと申します。よろしければリッチーと呼んでください」 龍一は、アメリカ人らしい自己紹介を英語でした。アメリカ人は、知り合った相手をファーストネーム、それも愛称で呼ぶことを好む。
「そうかね、リッチー。こちらこそよろしくところで、我々の選手をここに紹介する」
とグルー大使が手の平でそばに立っている金髪の男を差す。
「彼の名はチャールズ・タウンセンドという。一等書記官として今月から赴任することになった」
 そのとたん、龍一は「チャーリー」という言葉を発してしまった。
「やあ、リッチー」とチャーリーは返す。
「おお、さっそく、ファーストネームで呼んでくれるとは、気が合いそうだな」
とグルー大使はにこにこしながら、二人の対戦相手を交互に見ながら言った。
「ミスター・グルー、私は絶対、この男に負けませんよ」
とチャーリーは、にたにたしながら龍一に対して言った。
 龍一は、心の炎がばっと燃えついた気分となった。絶対に負けられない。
 外務大臣が、
「大使どうですかな。もし、私たちが勝てば輸出制限を解くと約束できませんかな」
と冗談ぽく話しかける。大使は、微笑みながらも何も答えない。
 コートの上に立った二人、試合は一セットマッチである。先に六ゲームを勝ち抜いた方が勝利である。
 まずは龍一がサーブする。ボールは、チャーリーのコートで跳ね上がり、チャーリーが跳ね返す。ネットの上を飛び越したボールを龍一がボレーで打ち付け、相手方に落とす。「フィフティーン・ラブ」
と審判をする大使館員が言った。
 龍一は悟った。チャーリーはテニスなどしたことはないと。
 試合は、見ている方にとってとても退屈な展開となった。龍一が一方的に責める体制になっていたからだ。二分ほどで一ゲームが終了して、次のゲームも同じ長さ、次もである。
 龍一にとっては赤子をあやすような感じであった。それでも手加減はしなかったものの、あまりにも差があり過ぎて勝負が見えている。日本人の招待客でさえも、面白味を感じられず、しらけてしまっている。アメリカ側の過剰なサービスかと思える程だ。
 龍一は、チャーリーが、それなりに立ち向かっていることを感じていた。だが、ろくにテニスの経験がないことが災いしているようだ。親睦会と思って甘く見ていたのか。
 龍一は周囲がしらける中、容赦せず試合を最後まで精一杯やり遂げた。
 試合は十五分ほどで終わった。あっけなく終わったという感じだった。龍一が全六ゲームを取り、楽勝である。チャーリーは一ポイントを取ったのみ。たまたま、龍一がボールをアウトした一回だけだった。それもラインぎりぎりでインと判定しても良かった程、微妙な審判結果によるものだ。
 ネット越しに、白々しく握手をして、試合を締めくくった。チャーリーはかなり汗だくになっていた。龍一はすがすがしかった。
 今度は、こっちがしてやったぞ、という気分に龍一はなっていた。
 二人でコートを出ると、龍一は何気なく話しかけた。周囲の者は、誰も自分たちに関心がなさそうだ。
「驚いたな。あんたが国務省の人間だったとは」
「ほう、何だと思った?」
とチャーリー。少し息が切れている調子だ。「FBIかOSIかと」
「そう思われたとは光栄だな」
 チャーリーは笑顔で龍一を見返す。
「私のことを何でも調べているとか言っているが、今度ばかりは調査不足だったな。テニスの腕前もきちんと調べておくんだったな。そして、自分よりもましな対戦相手をぶつけるべきだったな」
と龍一は当てつけのように言う。
「さっきの試合は、あんたの性格を分析する上では格好の材料だった。これで我々の良き仲間になってくれることは間違いない」
「何を言っている。勘違いしないでくれ。私はあんたらの仲間ではない。借りなど作ってはないぞ。思い込みを持ち込まないでくれ」と龍一はつけ込まれまいとした。蒋介石と会えたことを恩とは思ってないぞと言いたかった。
「いや、協力するさ。それも近い内に。君の体を流れる血がそうさせるのさ。私は何もかもお見通しだ。いいな。近々また会おう」
 チャーリーは、そう言うと龍一から離れて言った。
 また何をほざいている。一体何を企んでいるのか。龍一は警戒心を持ちながらも、気にしないようにすることにした。

 翌月、ドイツが隣国ポーランドに侵攻したニュースが駆けめぐった。

第41章へつづく。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

白虹 | 23:38:22 | Trackback(0) | Comments(0)
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