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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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環境教訓小説 「原発ターミネーター」 最終章 祖父と孫
原発建設阻止の活動家の前に未来人現れる。その正体と目的とは?

まずは、第1章から第3章までお読み下さい。

その日の晩、日本全国のテレビ放送、地上波、衛星、ケーブル全てのチャンネル、そして、日本全国からアクセスして閲覧するインターネットのサイトは、全て、あるPR映像が配信されることとなった。前代未聞の全国規模での電波及びネットジャックが、数分間、それも1時間おきに発生したのだ。

映像には、瀬戸内電力の田辺社長によく似た老齢の男が登場する。そして、男はこう言って、映像のナレーションを始める。
「皆さん、瀬戸内海に建設が計画されている原子力発電所をご存知ですか。それは、最新設計の安全で人々の生活を豊かにしてくれる発電所。炭素ガスを排出しないから環境にも優しい原発による発電だと詠われていますが、もし、これが建設された後は、本当にそんなことになるのでしょうか」
そして、建設された後の状況をリアルに描写する映像が、というよりまさに本物の未来映像が流される。新設の立派な原発ができたが、スナメリやカンムリウミスズメなどの絶滅危惧種が、とうとう見当たらなくなり、環境が破壊されていったこと。また、周辺海域に漁業被害が発生したこと。

リアルなニュース映像が流され、被害を訴える環境保護活動家や漁民の姿。とても俳優とは思えないリアルな映像。実際のところ、未来から持ってきたリアルな映像なのだ。

そして、次にクライマックス。建設されてから三十年後、老巧化した原発は大事故を引き起こす。瀬戸内海を汚染し、日本中を放射能で汚染する。事故当時の映像として炉のある建物の屋根が破壊され煙が噴き上がった姿、人々が避難する様子。病院で、癌や白血病で苦しみ死んでいく人々。生活が破壊され、多くの人々がスラムのような世界で暮らしている様子。すでに使われない原子力施設の廃棄物処理に悩む社会。日本中が絶望の淵に追いやられた姿だ。


最後に、田辺社長にそっくりの男はこう言う。
「神関原発が建設されれば、こんな未来が確実に訪れことを保障します。」

翌日、瀬戸内電力は、大騒ぎであった。マスコミからの問い合わせが殺到しただけでなく、一般市民からも抗議の電話が来て、社屋前での座り込みやデモ隊が押し寄せるなど、てんやわんやであった。何よりも、社長が出演して自ら建設しようとする原発の危険性をリアルな映像を使ってのPRに見えたのだから、いったいどういうつもりなのかと世間は大騒ぎである。

田辺吾郎社長は、その映像が流された夜、東京にいたが、翌朝、山口市の社に直行した。社にいた役員や社員から、不気味な目で見られたが、当然のこと、誰かのいたずらで、映像の男は自分ではないと主張。マスコミに対しては、映像が社とは関係なく、自分も出演などしてなく、誰かのいたずらに違いないだろうと説明をする会見を開くつもりであるとした。社の広報には、その準備に取りかかるように命じた。

田辺氏は、社屋から、自宅に寄ることにした。急に、自分の娘のことが心配になったからだ。ここ数日、娘が昏睡状態になったかと思うと、建設現場のクレーンが破壊されたり、ついには、自分のそっくりさんを使っての映像が全国に海賊配信されたりと、何だか、誰かが、自分を貶めているようにしか思えない。

娘は大丈夫だろうか。未だ意識が戻らない。呼吸も正常で、その他の体の状態も異常は何もないと診断されている。腹の中にいる自分の初孫もどうなっているのか。不思議なことに医師がエコグラフィなどで検査するのだが、腹が膨れているのに、子宮の中の胎児が見当たらないという。忽然と姿を消してしまったと、医学的にあり得ないことである。気を失う前日にも、同じエコグラフィで体内を調べたが、その時には、はっきりと元気に活動する胎児の姿が見て取れた。何かの間違いだと思われるのだが、どう説明をつけていいのか分からないと医師は言った。

とにかく、意識が戻るまでしっかりと看護して様子を見守るしかないと告げられた。だから、そうしている。

マスコミの取材陣やデモ隊に囲まれながら、社用車で社屋を出ていった。自宅に着いたが、そこにも、どっとマスコミ取材陣とデモ隊が待ち受けていた。

何とか警備に守られながら、自宅に入っていく。中に一人で入る。
「帰ったぞ、誰かおらんか」と叫んだが、静かだ。家政婦か、妻か娘婿か、ボディガードか、医師か看護婦がすぐに反応してもよさそうなものだが。とりあえず、一番心配な娘の小夜子に会わねば。娘が寝ている部屋へ向かう。部屋の前に立っているはずのボディガードがいない。

おい、どういうことだ。ドアの前で警備しろと言ったはずだ。部屋の中には医師と看護婦がいるはずだ。ドアを開けた。

だが、医師と看護婦はいない。


ベッドの上に寝かされ点滴を受けている娘だけだ。どういうことなのだ。
「奥さんも、娘婿さんも、警備員も、お医者さんも看護婦さんも、隣の部屋にいるよ。そして、この人と同様にぐっすり眠っているよ」と声が、目の前に男が立っている。
一瞬、鏡を見ているのかと思え、面食らった。自分と生き写しの男。まさか、この男が、あの映像に出てきた男では。
「貴様は何者だ? 勝手に忍び込んでやがって」
「ちょっと先回りして、この家に入らせて貰ったのさ。誰にも疑われず堂々と入れた。そして、あんたと二人っきりで話すため、静かにして貰っている。なあに、ちょっと眠気を与えただけで、1時間もすれば目が覚める」
と社長にそっくりの男、田辺吾郎の孫は言った。隣の部屋に誘い込み、彼らに催涙ガスを浴せた。眠らせた者のうち、二人は自分の父と祖母だったので良心の呵責を感じたが、やも得なかった。
「昨晩流された映像を作ったのはお前か」
と田辺は訊いた。間違いないと思って。
「ああ、私だよ」
「このやろう、あんなニセモノを、それにどうしてお前はわしにそっくりなんじゃ」
と田辺吾郎。心の中の恐怖感を抑えながら問いつめた。
「あの映像はニセモノじゃないさ。本物の映像を流したまでさ。なぜ、そっくりって、当然だろう、血がつながっているんだから」
「え、何だと、血がつながっていると。わしの兄弟ということか。わしには男の兄弟はおらんぞ。知っている限り、親戚にもわしとお前ほどそっくりな奴はおらん」
「いやいるのさ、数日前までは、この人の腹の中に存在した者がね」
と昏睡状態の小夜子を指差す。
「なぬ」
「この人は私にとっては母親。そして、あんたは、私の祖父ということだ」
「そんなバカな、まだ生まれてもいない孫が、ここに存在できるはずがないだろう」
「それがしているのさ。未来から来たんだ。60年後の未来から、とてつもなく絶望的な未来の世界から、やって来たんだ。あの映像のような」
「嘘だ、デタラメだ。こんなペテンにわしがかかるとでも思っているのか」
と田辺吾郎が怒鳴り散らすと。
「これを見ろと」
孫は言った。自らの手の平を小夜子の腹に置く。すると、手は、吸い込まれるように腹の中に入っていく。
「この時代、本来なら私は、この腹の中にいなければいけないんだ。しかし、あんたぐらい年をとった後の未来からやってきたため、同じ物体が同時期に存在できないから、胎児だった私は消えた」
田辺吾郎は、目の前で起こる超常的な現象を目を凝らして見た。信じられないが起こっていることだ。幻ではない。
「じゃあ、あの映像は本物で、お前はわしの孫で、未来から来たというのか。いったいなぜ来たというのだ?」
と田辺は訊く。
「あんたが、自分のすることがもたらす結末に、どれだけの覚悟があったのか確かめたかったからだ」
「ひどい結果をもたらすなど、予想などしていない。あり得ないと思っている」
「どうせ自分が死ぬ後だから、どうでもいいと思っているのか、見ろ、これを」
孫は、シャツをずり上げ、自分が受けた手術跡を見せる。そして、ポケットから白血病にかかり障害に苦しむひい孫の写真を。髪の毛は抜け落ち、精神に障害が見られるうつろな表情をしている。
「影響はあんたの孫も直接受けた。そして、その子供、ひい孫もだ。子孫に今後延々と受け継がれていく。そういうことに責任を持って決めたのか」

田辺吾郎は、孫を前にして、その場に平伏した。呆然として、しばらく考え事をして床に座り込んでいた。さっと孫の方を見上げたが、そこにはいなかった。突如として消えたのだ。

田辺は、また考え事をして、寝込んだ状態の娘を見つめ、膨れた腹にそっと手を当てた。

田辺は部屋を出て、玄関に向かった。そして、ドアを開ける。庭を歩き門に向かった。マスコミやデモ隊が待ち受けている。

田辺は、テレビ局のカメラの前に向かった。
「皆様にお知らせしたいことがあります。実をいうと、昨日の映像は私が作ったもので、私が出演しました。目的は、今度の原発建設を中止する旨を皆様に分かりやすく説明することと、今後、日本及び世界の人々に対し、原発は有用なエネルギー源でないことを知らしめるためです。今は良くても、未来に、とてもつもない負の遺産を残してしまうことになります。今の時代の人々はよくても、子孫が苦しむことになり、その苦しみを遺した我々は子孫にどう思われてしまうのでしょうか。そのことを訴えかけるために、あの映像を作り、ご迷惑と分かりながらも、あのような方法で配信しました。皆さん、考えてください。顔を見ぬ子孫のことを、彼らのために今があると思えませんか」

マスコミやデモ隊に囲まれている田辺の姿を遠目に見ながら、田辺の孫と洋二は、にっこりとして見つめ合った。
「見ろ」と田辺の孫はシャツをめくり上げる。体の傷が消えている。そして、洋二は、昨日渡された雑誌の記事が印刷された紙を見た。紙は白紙になっていた。

「さあ、私はこれから、元の世界に帰られねば。この時代に無事生まれなければいけない。でないと、自分は存在できないのだから」

終わり

このストーリーのネタ元となった現在進行中の出来事を描いたドキュメンタリー映画が公開されています。詳しくは、映画「祝の島」を。

次に連載するのは「風と共に去らないでくれ」です。

また、同じく原発をテーマとした軽小説「記憶」も連載となりました。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

原発 | 01:42:16 | Trackback(0) | Comments(0)
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