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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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社会教訓小説2: ふれあい商店街 第1章 プライベート・ブランド
日の丸に死す」に続く人間と社会のつながりをテーマにした軽小説。失われた地域コミュニティが問いかけるものとは。軽小説スタイルで。

プライベート・ブランドという言葉を知っていますか。これは、スーパーマーケットなどの大型小売店が、店独自のブランドで商品をメーカーに委託して製造し販売するもので、ストア・ブランドとも呼ばれます。これは欧米ではかなり普及しており、その流れを受けて日本でも同様の商品が販売され、現在、全小売市場の1割近くを占めるまでになっています。

プライベート・ブランドに対して、広告で知られたメーカーのブランドがつく普通の商品をナショナル・ブランドと呼びますが、比較して何が違い優れているのかというと、プライベート・ブランドはナショナル・ブランドに対して価格が安いところでしょう。そして、それこそが大型小売店がプライベート・ブランドを採用している理由なのです。価格が同様の商品と比較して1割から2割ほど安くなります。どうして、それが可能なのか、それはナショナル・ブランドと違い宣伝広告費を省け、また、流通経路を簡略化できるので在庫管理などの費用も省けるからです。商品の販売場所は製造前から決まっており、商品は消費者が訪ねた店にしかないものというのが特徴。なので製造から販売までの中間過程がごっそり抜けているのです。

まさに、小売店業界の熾烈な価格競争で生き抜く方法として考案されたものだといえます。

さて、これからお届けする物語は、そんな業界に身を置く一人の女性が体験する奇妙な出来事です。それはプライベート・ブランドが巻き起こす地域社会のふれあいを知るストーリー。

篠原真知子は、29歳で、現在、大手外資系スーパーマーケット・チェーンであるウォーリーマートの商品開発部で働いている。この部署は、主にウォーリーマートのチェーン店で販売する様々な独自ブランド商品の開発を責務とするところである。本社のあるアメリカ仕込みのプライベート・ブランド商品開発は、真知子にとって生き甲斐を感じられる仕事であった。商品はメーカーが造っているのだが、それに独自のパッケージを考え、商品に独自イメージを添えていくのが仕事である。もちろん、場合によっては、そのパッケージのイメージに合う商品の製造を委託することもある。商品の種類は、牛乳、冷凍食品などの食料品、洗剤、トイレットペーパーなどの日用消耗品、洋服、靴下、財布などの生活用品と、スーパーに行けば目にする日常生活で必要とする多種多様な商品である。

商品を製造するメーカー企業と違い、特定の商品をつくったり、そのマーケティングを行うのとは違う。幅広い商品を如何に上手く店頭販売するかが、腕の見せ所となるのだ。

目下、ウォーリーマートの主力プライベート・ブランドは「ウォーリーバリュー」である。これはアメリカの同店ブランドを引き継いだもの。

各商品のパッケージや値札に「ウォーリーバリュー」のロゴが印刷されている。つまりは、商品の製造から販売、品質の保証までウォーリーマートが担うということを意味するのだ。そして、商品はナショナル・ブランドより1割から3割ほど安い価格設定になっている。

真知子は大学で経済学を学び、卒業後、新卒としてウォーリーマート・ジャパンに入社した。アメリカ系の会社だけあって、実力主義だが、能力があると認められれば、女性であることや年齢の若さに関係なく、よいポジションに抜擢される。彼女の上司である開発部長の牧原部長は女性で39歳というバリバリのキャリアウーマン。

入社以来、大学で学んだこと以上に、小売り業界にかかわるあらゆることを学んだ。商品はどのようにして売られていくのか、いかに利益を出すかが主要学習項目だ。値入り率、SKU、利益率、ブランディング等々、社内では懇切丁寧に研修が行われていた。彼女は、新入社員の中で一番呑み込みが早かった。

真知子は、最近、部内で主任の地位に就くことになった。彼女の市場調査の能力と成果を買ってのことだ。そのことで、ますます自信がつくようになった。自分のプロジェクトチームを持ち、10人近い部下を率いて日夜、社の売上向上に貢献することを生き甲斐にしている。

ウォーリーマート・ジャパンの本社は、25年前に日本に進出した時の第1号店であるT町店の隣接するビルにある。すでに全国に100店舗のチェーンをかかえているが、この第1号店が一番規模が大きい。そして、さらに拡張のため、オフィスとして使っていたビルのフロアを店舗として使う運びになった。新社屋は、隣隣の町で、やや郊外となる住宅地に近々開店予定のこれまた新店舗に隣接するビルである。すでにオフィスとなる建物はできていて、引っ越しが進んでいるものの、店舗の方は、まだ完成するのに時間がかかるとのことだ。

昨今、社の企画としては進出25周年記念として、新たなブランドを立ち上げ、1号店の新拡張フロアで盛大なお披露目イベントを開くことが決まった。

そのための新たなブランドの企画が社を挙げて進行中だ。もちろんのこと、商品開発部が主軸となって進めなければいけない。新ブランドは、今までと違い、価格でナショナル・ブランドと対抗するのではなく、新たな高品質のラインアップを目指しているとのことだ。プライベート・ブランドは、ウォーリーマート・ジャパンが始めて以来、他の小売店も同様の商品を販売し始め、特に珍しいものではなくなったほど普及している。それならば、今度は、価格は高めでも品質で対抗できるものがあるのではないかと新ブランドの立ち上げを目指している。



これまでは価格を低く抑えるため、メーカーと交渉して、コストを下げたりして、場合によっては労働コストの安い海外の工場に委託するなどして低価格化を重点においてきた。しかし、どこもそれをやりだしたので、新たなる差別化が必要になった。すでに欧米でも、そんなプライベート・ブランドが出だしている。しかし、ウォーリーマートではアメリカでも、そんな類の商品ブランドはなく、これは日本独自のブランドになる。なので力の入れようは並みではない。熟慮に熟慮を重ねての検討がなされている。

考えられるのは、食品であれば有機栽培、国産限定材料、また、海外の発展途上国の農業発展を目指したフェア・トレードなどである。これらは価格の面では一般のナショナル・ブランドよりは価格で高くなること間違いないが、安心・安全・良心的だという意味でブランド・イメージがいい点で消費者を惹きつけやすい。

だが、それは大いなるチャレンジでもある。一つの新ブランドを立ち上げるのだから、膨大なコストがかかるので失敗するととんでもない損失になる。

真知子は、新ブランド立ち上げ検討会議出席の後、帰宅の途についた。いつものように各チームから、様々な案が出され、可否を検討するが、相変わらず結論が出ない。皆、及び腰になっている。真知子のチームも新ブランド案を発表するように任ぜられているが、リーダーの真知子も、チーム・メンバーも、これといってぱっとした案を出せていない。困った。そろそろ出さないと、と悩んで社の玄関に向かった。あと数日で、新社屋に移るので、この玄関を通るのもあと数回程度だ。来週には、新社屋に移っての仕事になる。何とか、それまでに新ブランド案をチーム・リーダーとして発表しないと、と焦っていた。

玄関の外に出た。数分ほど歩けば電車の駅がある。だが、玄関前で警備員と髪の毛が真っ白でしわくちゃな老婆が口論している場面に出くわした。警備員は、老婆に必死で何かを説明しているが、老婆は、それに対してつっかかるような調子だ。真知子は気になり、二人に近付いた。
「ねえ、おばあちゃん、何度もここに来るけど、おばあちゃんの言っているような商店街なんて、ここには存在しないよ」
「いや、あるはずよ。T町商店街って、いつも通って買い物をしていたのよ。わたしのお友達が切り盛りしているお店が並んでいるのよ。みんなはどこに行ったの。ねえ、雑貨屋の岡ちゃんなら、私のこと知っているはずよ。お願い、岡ちゃんに会わせて、お願い」
とついには、叫び声を上げる老婆に、困り果てた様子の警備員。
「どうしたんです?」と真知子が警備員に声をかけると。
「いやあ、困ってね。最近、ここに来るお婆さんで、どうやら頭が呆けているようなんで。ありもしない商店街がここにあるはずだと聞いてくるんですよ」と警備員。
「お婆さん、ここに商店街なんてないんですよ。ここにあるのは、スーパーマーケットのウォーリーマート。ほら、このビルの隣にあるでしょう。欲しいものなら、そこで買ってください。何でも揃っていますよ。このビルは、隣のお店とくっついて、合わせてもっと大きなスーパーになるんですよ。そしたら、また、いらしてください」
と真知子は愛想良く返した。きっと、痴呆で、どこか別の場所と、ここを混同しているに違いないと思った。
「いや、わたしは商店街じゃないといけないんだよ。ここにあるはずなんだよ。道を迷ってなんかいないさ。ここには昔なじみの人達がいて、いつもその人達からものを買っていたんだよ」
と老婆が、真知子にこわばった形相でつっかかる。こりゃ、かなわないと真知子は思った。
すると、中年の女性が駆け足で、真知子達に近付いてきた。何だか、申し訳なさそうな表情をしている。
「ああ、すみません。お母さん、また、勝手に抜け出しちゃって」
と中年女性。
「どうしたんです?」と真知子。
「本当に申し訳ございません。この通り、年のせいで呆けが進行してしまって、どこか過去や別のところで経験したことを思い出して、まるで、今の時点で起こっているかのような錯覚を起こすんですよ」
と困ったような表情で、老婆を中年女性は、引っ張ってその場から連れ去った。

とりあえず、ほっとした。そして、真知子は家路に着いた。過去の記憶を今現在と錯覚する? 昔、ここに商店街があったのかしら。周囲を見渡してみても、そんな面影はない。ウォーリーマートの周りにあるのは、住宅、マンション、小さな規模の店といえば、コンビニエンス・ストアぐらいだ。あとは、ファミリーレストランやレンタルDVD屋など。日用品や雑貨、食品を売るような個人経営の商店などは見ないのだが。

ま、どこか別の場所での記憶と錯覚しているのだろうと真知子は思った。

翌週、新社屋での業務がスタートした。隣は、建設中の新店舗である。住宅地のど真ん中にあり、新店舗であり本社に隣接するだけあり、店舗スペースも最大の規模になる予定だ。もっとも、電車で2駅ほど隔てた程度で通勤時間も、そんなに変わらない。オフィスの造りも、前とはほとんど変わらないので、特に心機一転した気分にならなかった。

もっとも真知子の頭の中にあるのは、元の社屋を改造してオープンする第1号店の新フロアを発表の舞台にする新ブランドの件だ。まだ、いいアイデアが思いつかない。

だが、そんな悩みの渦中にある中、さらに真知子の頭を悩ませる事件が起こってしまった。真知子入社以来の大失態である。

第2章へつづく。
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軽小説 | 23:35:08 | Trackback(0) | Comments(0)
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