■プロフィール

海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

■最近の記事
■最近のコメント

■最近のトラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリー
■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
旅小説「私を沖縄に連れてって」 第11章 妨害開始
米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第10章までお読み下さい。

 七月
漁港に変化が訪れた。というのは、ちょくちょく防衛局の人員が訪れ、船に乗り滑走路建設予定地の沖合まで出ていく姿がしばしば見られた。それは環境アセスメントという名の元の建設着工の準備作業といえるものだ。
 そして、その船出には辺奈古の漁民の船が駆り出されている。最近、漁に姿を見せなくなった海人の下地が、防衛局の調査員を乗せているので、安次富が調査の船出から戻ってきた下地に詰め寄った。
「おまえ、どうしてこんな奴らと一緒に海に出る。ウミンチュウとして恥ずかしくないのか」
「安次富さん、知っているだろう。俺は、去年、お袋が重い病にかかって、娘は来年、高校卒業で、できれば大学に行かしてやりたいし、漁業だけじゃ十分な稼ぎができねえんだ。この人たちを沖合に出すだけで一回に四万円ぐらい払って貰えるから・」
「だからって言って、俺たちの漁場を壊すことに協力するのか」
と安次富、憤りを隠さない。下地は何も言わずに、防衛局の者共と一緒に去っていく。
 よくあるパターンだ。敵は、そういうところに付け込んでくる。船のチャーター代を弾み、滑走路ができて漁業ができなくなったら補償金を払ってやると持ちかけてくるのだ。考えてみれば、こんな稼ぎの少ない重労働より安易に入る高額の現金収入を求めるのは無理もないことであろう。
 海を守りたい、戦争の基地をつくらせたくないというのは、単なるセンチメンタリズムに過ぎないと思える。
 だが、安次富や龍司のように海人として生き続けたい者にとっては生計の場を奪われるのだから許せることではない。また、一般の沖縄の人々にとっては、政府が普天間の基地の負担を取り除くといいながら、基地を県内にたらい回しにする今度の移設案は納得いくものではない。規模を半分にして移設すると言いながら普天間にない軍港まで備えた新基地を建設するのだから、かえって負担が増加しかねない。移設するのなら、なぜ県外ではないのか。そもそも、普天間飛行場は米軍の基地なんだからアメリカに持っていけばいいのではないのか。
 テント村の活動家たちは、調査船の漁港出入りが頻繁になったことを受け、さっそく公道を開始することにした。彼らの信条は非暴力直接行動だ。
 漁港の船を係留している場所の前に百人以上の人々が集まった。そして、朝早くから座り込んだのだ。防衛局の調査員は船に乗せないように腕を組み合って人間の鎖を作り船に乗るのを妨害した。
 互いに怒号で罵り合いを続けた挙げ句、防衛局員の船出は、ことごとく阻止された。
 しかし、防衛局は、それならばと遠い埠頭から船をチャーターして辺奈古沖にくり出し、調査を続ける。
 それに対抗するため、活動家たちは、カヌーやゴムボートをくり出し、調査船が航行する進路に入り込み海上での妨害活動に乗り出す。最初、防衛局側は、何隻ものカヌーやゴムボートを相手に引いてしまい、作業を中止せざる得なくなったが、そんな日が数日続いた後、防衛局は調査船に海上保安庁の巡視船が同行することになった。巡視船から、活動家たちのよりもモーターの馬力が格段に優れサイズも大型のゴムボートが数隻、海に出された。妨害をするカヌーやゴムボートを相手に拡声器で警告を発し調査船に近付かせないようにガードを張った。
 これには活動家のカヌーやゴムボートでは全然相手にならない。海上保安庁といえば、こういうのに対抗するプロだ。
 安次富と龍司と仲間の海人たちは、その様子を漁をしながら遠巻きに眺めていた。とりあえずは活動家たちに任せておこうと思ったのだ。自分たちは自分たちで生活のための漁をしなければならない。また、彼らの活動に積極的に関わってくると、市場で競りを行うなど漁協組合員としての営業活動にも影響が出てくる。公権力がどのように介入してくるか予想がつかないのだ。
 安次富の長男である洋一が筆頭ということもあり活動家たちも、漁民のその辺の事情はよく理解しており、妨害活動に誘ったりすることはしなかった。海人としては、影で見守り応援するという形での支援しかできないのだ。
 しかし、そんな悠長な態度では、ままならない事態が訪れた。敵が本格的に建設の準備作業に乗り出したという情報が入った。それはボーリング調査を行うというものだ。ボーリング調査は、海底を掘削しての地質調査だ。当然のことながら珊瑚の破壊も伴う。そして、掘削作業をするための足場を確保するための櫓を海上に建てるという。調査の後は、その櫓を足がかりとして埋め立て作業を行うのだろう。
 これは徹底的に阻止しないといけない。

八月
 早朝、辺奈古の海人たちは、船を二隻、沖に出した。その内の一隻は龍司と安次富が乗るアシトミ丸だ。テント村の活動家たちのカヌーやゴムボートと行動を共にするつもりだ。



 今までの調査といえば、船で各地点の地形を音波計などを使い測定したり、人を潜らせて地形を調べる程度のものだったが、今回のを見過ごすと、恐ろしいのは、気が付かない内に埋め立て作業が進行しかねないのだ。
 これから建てる櫓は、間違いなく作業用の基地となる。パイプや板を積んだ作業船が三隻近付いてくるのが見えた。海上保安庁の船が護衛についている。作業船の周りには妨害を阻止するための大型ゴムボートが二台ほど随行している。
 龍司は腹が煮えくりかえる想いだった。せっかくのイノーが埋め立て壊される。いくら金を貰っても譲れるものではない。それが漁業で得られるより高い報酬であっても、そんなことプライドが許さないのだ。人の弱みに付け込んでコントロールできると思ってやがる。そして、最後には力でねじ伏せられると思い込んでいる。それが許せないのだ。
 それにこの海は、この沖縄の人々、日本人全体、いや世界中の人類全体にとっての共有財産だ。それを失ってなるものか。この美しい海を壊すことは人類子孫に対する冒涜にもなる。自分には、それを守る義務があると感じている。海人としてでだけでなく、一人の人間としてなさねばならぬ使命と考える。
 実際のところ、妨害行動といっても何をしていいのか分からない。洋一や活動家たちのいうところによると、とにかく、進路を塞ぎ、また、工事に着手しだしたら、海面に立ちはだかったり、海中での作業に対しては潜って工事地点に寝そべるなりして、妨害をしろということだ。海上や海中での行動に関しては不法侵入は法的には適用されにくい。
 ただ、くれぐれも暴行を加えることはするなということだ。直接行動といっても、座り込んだり立ちはだかったりすることに限定する。相手が暴行を加えてくるかもしれないので、それから自らの身を守る程度のことはしてもいいが、それ以外は犯罪行為とみなされ、そうなると、相手にさらなる弾圧をさせる口実を提供することになる。
 ついに活動家のカヌーやゴムボートと海人の船は、作業船と海上保安庁の船とゴムボートと真っ正面から対峙する位置まで来た。イノーから離れた沖合で、ここはおそらく滑走路の先端部分に当たるところだ。
「ただちにこの場から立ち去りなさい。今から、ここに単菅足場を建てます。パイプや杭を打ち込む作業の妨害をしてはいけません。妨害行為は威力業務妨害での検挙の対象となります」
と海上保安庁の巡視船の甲板にメガホンを持った男が言った。巡視船は作業船とは距離を置いているが、作業船の周りの大型ゴムボートにはヘルメットと救命胴衣とウェットスーツを着たかなり逞しい体格の男たちがぞろりと乗っている。
 カヌーが近付けば、乗っている奴らにボートが近付きパドルを奪ったり、カヌーから落としたり転覆させたりするのだ。これまでそういう光景を何度と見た。そんなやり取りが何時間も続くのだ。
 作業船が動く、クレーンを上げ、海面に作業地点を示すブイを置こうとする。さっそく、カヌーがその場所にすっと流れ込んできた。クレーンは止まる。
 すると、大型ボートがカヌーに近寄って乗っている男を落とそうとする。
「よし、いくぞ」と安次富が言うと、龍司は操縦桿を動かし、大型ボートにアシトミ丸を接近させた。ボートは急ブレーキをかけたのか、大きくうねって横転、中にいた者が数人、海中に投げ出された。
 龍司は、やった、絶妙の操縦テクニックと自分を褒めた。
 すると、ボートは一旦離れたものの、仕返しをするかのようにアシトミ丸に向かって来た。よし、それならばと、龍司は船をぎりぎりのところで、よけてボートを交わした。するとボートは作業船にぶつかり、作業船からパイプや杭が何本か海面に投げ出された。
 活動家たちは、その光景を見て大笑いした。実に優れた味方を得たものだと皆、大喜びだ。
 もう一隻の船も作業船や大型ゴムボートとの対戦で海人の操縦テクニックを活かし、快勝という具合で妨害を続けていた。何しろ、沖合は浅瀬と比べると格段に波が高くなるので、その高い波に乗りながら操縦するのには特別なテクニックが必要になる。それは海人ならではのテクニックだとしかいいようがない。
 だが、作業船は三台あったため、三台目にはカヌーとゴムボートのみによる対戦なので、思ったほどうまくいっていないようだ。カヌーやゴムボートはどんどん転覆させられ、活動家たちは海面に落とされ、何度も泳ぎへとへとになる者が続出した。
 その内に、海中に杭が打ち込まれ、パイプによる櫓の組立が進んでいく様子だ。
 龍司は見ていられず、安次富に船を任せ、海に飛び込み、櫓の組立が行われている海中まで潜った。
 ダイバーたちがパイプをつなぎ合わせている。龍司が、その作業をしているダイバーの前に立ちはだかる。すると、後ろから別のダイバーが龍司の首をつかみ、その場から離そうとする。龍司は、ダイバーの腕をつかみ力一杯引っ張り上げはねのけると、得意のパンチをダイバーに加えた。ダイバーはレギュレーターが口から離れ混乱状態だ。すぐに浮上した。
 龍司も息切れしてきたので浮上した。活動家のゴムボートが来たので、すぐにそこに乗り上げた。
「大丈夫?」
と言う洋一が手を差し出し、引っ張り上げた。
「ここはやられそうだ。このままだと櫓が立ってしまう」
と悔しそうな表情で見る。他の二台は、作業が全然進んでいない分、この櫓は組み立て作業を進めている。カヌーやゴムボートでは、強力な大型ゴムボート相手には歯が立たない状態だ。
 その日の夕刻近く、単菅櫓が一台出来上がってしまった。三台の作業船で三台作ろうという計画だったのだろうが、できたのは一台だけだったので、妨害の成果はあったのだろうが、しかし、この一台だけでも掘削作業は開始できる。何とか阻止しないとならない。
 よし、明日からは、あの櫓に座り込みをするぞ、と活動家と海人は決意した。

第12章につづく
スポンサーサイト

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

沖縄 | 02:05:08 | Trackback(0) | Comments(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。