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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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「ヨーソロ、三笠」 第5章 未来の品々
平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。

まずは序章第4章をお読み下さい。

「ああ、知っておるが、モールス信号の無線と電話がどうしたというのか」
と訊く東堂。
「これは、その電話と無線機通信が合体して、どこでも持ち運べるようにした機器です」
「それは誠か?」
「ええ、だが、残念ながら、この世界では、その通信技術をご紹介することはできません。これに対応する電波基地が存在しませんから。ただ、これは電話や通信をするだけの機器ではないのです。この機器にはカメラ、つまり写真機と映写機の機能も入っているのです」
「なぬ?」
と言った東堂の表情を源太はボタンを押し撮った。「カシャ」と写真のシャッター音に似せた撮影が完了したことを知らせる音が響く。その音にまず驚くが、源太が、それを撮った画面を見せるとさらなる驚愕の表情になった。
「これは、おいどんではないか。それも色がついて、この、何だ? たった今、この板に写したのか。現像もせずにか」
「ええ、一瞬で写せるんです。もちろん、カラーで」
「ほう」
 東堂は液晶画面に写った自分の顔をまじまじと見つめる。
「次に、映写をします。同じくカラーで、動く写真。活動写真といえば分かるでしょうか」
「ああ、活動写真かね」
と言う東堂を源太は携帯カメラで撮影していた。約十秒足らずだ。そして、画面を見せ再生する。
「こんなに小さくて薄いものじゃが、音も吹き込めるのか。この時代の活動は絵は動いても音は出ん」
「ええ、そうですよ。僕の時代では当たり前のことです。そんな活動写真がたくさんあり、本来ならこれよりずっと大きい画面で見て楽しむことができるのです」
「これが未来の技術かな。となると、未来にはおいどんのような者にとっては想像もつかないような光景が見えるということか」
 未来の光景、想像もつかない、という言葉で源太はおもいついた。この時代でも変わらぬ未来の光景を見せよう。
「これはどうでしょう? 皇居、あ、この時代では宮城とか呼んでいたはずですよね。天皇陛下の住まわれていた場所ですが、それを撮った活動写真もあります」
と源太は、保存データから、一ヶ月前に訪ねた時撮った皇居周辺の動画を選び再生した。

 東堂が唖然とした表情で見る。
「これが陛下のいる宮城の辺りというのか」
 二十一世紀の宮城だが、石垣や濠、外苑、二重橋は変わらない姿だ。しかし、それらスポットの周囲には高層ビルが建ち並び、明治時代とは全く違った光景であるのに驚く。
「こんなに周りは変わっておるが、陛下はおられるのか」
「ええ、もちろん。ひい孫の方が跡を継いでおられますけど」
「ほう、天皇家は続いておるのか」
と何だか嬉しそうな表情だ。源太は、携帯電話の他にポケットにあるものとして財布を取りだした。
「これも見てください。未来のお金です。ご存知の方が印刷されているので分かるかと」
と源太は言いながら、財布からお札を三枚取り出した。丁度、一万円札と五千円札と千円札が一枚ずつ入っていた。
 福沢諭吉、樋口一葉、夏目漱石の肖像画が印刷されている。源太は一枚一枚見せて紹介した。
「おう、どなたもおいどんが知る人ぞ。福沢どんはよく存知あげておる。会ったこともある。一万円という価値はある方じゃ。それから、樋口一葉とは物書きとして有名じゃが。夏目漱石、おう夏目金吾郎は、この艦の参謀の秋山真之と学校で同期で予備門に入って帝大で教えておるとか、また、小説も書いてとるとか聞いていたが、ほう、未来ではお札になっとるか。それも千円札とは。大金じゃな」
「言っておきますが、この時代の価値と比べてかなり下がる額ですから、僕が未来から来た人間だということは信じていただけましかね?」
「おう、信じる。というか、おはんは、さっき最初に目にした時から、そんな人物だということは分かっておった」
 威厳たっぷりに東堂は源太を見つめて言う。



「そうですか」
「まず、この背と体格じゃ。この時代には、おはんのような男は滅多に会えん。異人か、よっぽど珍しい奴でない限りはな。この艦ではおはんは一人を除いて一番背が高い」
 その一人とは誰だか、すぐに分かった。しかし、背が高いというが、源太の時代では平均より少し上だ。
「おはんの時代では、背が高い方であるか」
と東堂が訊くので
「いえ、平均ぐらいでしょうか。せいぜい、それより少し上かも」
「おお、そうか。さぞ栄養状態のいい時代であることの証明じゃなおはんは。背が高いだけでなく、体もがっしりとしている。胴体も腕もしっかりしている。この時代では力士にでもなれるぞ」
 そうか、明治の時代は、この東堂ぐらいでもけっして小さい体格とはいえなかったのだ。それは当時の日本の栄養状態を反映しているのか。食べ物が全然違うんだ。当然だろう。
「だが、おはんの体格、先程見せてもろうた未来からの品々だけではなか。おいどんは昨夜、面白い夢を見てのう。それは、おはんと出会うことを予感しておったんじゃ」
「夢?」
「おお、神からのお告げと申したらいい。きっと、お告げ通り、おはんは神からの使者ということではないかのう」
と言いながら東堂は意味深に源太を見つめる。
「どんな夢だったのですか」
「おいどんは、今の今まで悩みをもっておった。この艦の出撃に関して決めなければならぬことがあってのう。その答えに悩んでおった。そして、幾度も神に懇願し答えを求めた。すると、昨夜の夢で神らしきものが現れ、おいどんに、こう告げたんじゃ。艦に神が遣わす者が降り立つ。その使者はおいどんを「神様」と呼ぶ。その者が答えを持ってくると。どうやら、それがおはんのようで、その答えを持ってきたということであるな。しかと受け取った」
 源太は、その東堂の言葉が理解できるようで理解できなかった。夢に現れた神? 悩んでいたことへの答え。それを自分が現れ東堂に持ってきた。自分が神から遣わされた使者だというのか。訳が分からない。だが、訳が分からないのはお互い様だと思った。
 自分も時空を超えてやってきたことを必死で理解して貰おうとしている。どんな形であれ相手が自分の立場を理解してくれることには安堵感がある。何とか、この混乱の状況から脱する糸口が掴めるかもしれない。
「ご理解いただいて安心しました。何はともあれ、そのようにご理解いただけたというのなら、さっそく僕をこの船から下ろしてください」
と源太は、まずこの老人にお願いしたいことを訴えた。
「いや、ならぬ。おはんは、これからこの艦においどんや同志と共にいなくてはならん」

第6章へつづく。
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テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

三笠 | 21:29:41 | Trackback(0) | Comments(0)
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