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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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性を考える小説「セックス・ティーチャー」 第1章 カリスマ教祖
人間にとってセックスとはいかなるものかを問う小説。内容が内容なので18歳未満お断り。

 セックス教団「自然体」の大集会会場。大きなホールに千人近くの老若男女が集まっている。彼ら彼女らは、敬愛する教祖「ティーチャー」の登場を待ちわびている。そして、皆、生まれたままの姿である。まさに自然体なのである。
 
 その中の一人に、その教祖を長きに渡って知る男がいた。彼は教祖が、なぜ「ティーチャー」と呼ばれるのか、その所以を知っていた。物語は彼とティーチャーが初めて出会う二十数年前に遡る。男が、まだ若く敬愛するティーチャーが、その名の通り「先生」であった時だ。

 一九八五年 夏
 篠塚俊雄は、名門私立K学院高校の体育教員であった。年齢三七歳、身長 一八〇センチの長身に体重八五キロの筋肉質な引き締まった体格。精悍な顔付きをしていて、いかにも体育教師という風格だが、けっして強面ではない。むしろ二枚目といった方がいいだろう。日焼けしたような浅黒い肌で歳より若く見える。話し声には張りがあり、はつらつとした響きがする。授業で指導する時は、気さくで明るさを振る舞いながら接し、生徒は誰もが篠塚に会えるのを楽しみにした。時に厳しいこともするが、それは篠塚の親身さの表れであると受け止められるほど、嫌みっぽさは全く感じられず、かえって信頼を高めることの方が大きかった。
 篠塚は、子供の頃から運動神経万能であった。小学校の頃は水泳を、中学の時はバレーボールをした。高校時代、大学時代はテニスとスキーで体を鍛え、テニスとスキーで国体に出場した経験があるほど、どんなスポーツをやらせても、すぐに上達し活躍をした。
 なぜ、教師になったかというと、それは両親が教師だった影響が強く、大学は教師になるため教育学部に入った。当初は国語の教師を目指していたが、せっかくの運動能力を活かして体育教員の資格も取得することになり、結果、高校までの国語と体育・保健の教員免許を取得することになった。
 大学卒業後、最初の五年間程は、中学校の国語と体育の教師になったが、やってみると断然、体育教師向きであると分かり、その後、高校の体育・保健教師のみとして務めることにした。五年間ほど、ある公立高校の体育教員として赴任した。
 そこは、けっして環境のいいところではなかった。低所得層の家庭の子供たちが通い、家庭環境がひどいせいか、勉強はしない、授業はさぼる、学校のものを平気で汚したり壊したりする、教師へ暴力を振るったり、同級生をいじめたりする不良な生徒たちも多く、学校は生徒たちの生活指導に、かなり手こずらされていた。
 だが、むしろそのことが、篠塚にとっては能力を発揮する機会になった。篠塚の風貌は、それだけで生徒たちを惹きつけ、親身で時には厳しい指導により、元気づけられ、篠塚を中心に連帯の輪がどんどん広がっていく現象が巻き起こった。篠塚にはカリスマ性があった。そのカリスマ性をもって指導に当たり、生徒たちに、どんな不満があろうと、どんな困難があろうと目標を成し遂げることの大切さを教えていった。生徒たちは、いい方向へと変化していった。
 篠塚の存在で、学校の環境はみるみる良くなっていった。それは篠塚にとっても、喜びとなった。だが、ある出来事により、篠塚は、その高校を去り、私立K学院に移ることになった。その出来事とは、ある女子高生との間に起こったことだ。篠塚と彼女しか知り得ないことである。学校側には理由を告げず、篠塚は、惜しまれながら辞めた。知り合いの紹介で転勤したのが、私立K学院である。
 K学院は、中学校と高校のある男女共学の名門私立であり、毎年、国立や私立の名門大学への合格者を多数輩出する実績を持つ進学校であった。生徒の多くは、裕福な家庭の育ちで、何不自由なく育った生徒たちだ。家庭環境に恵まれているため、不良などは一人も見られない。前にいた学校とは、その点が大きく違っていた。
 だが、カリスマ性は大いに活かされた。学院は文武両道を信条に、学業だけでなく、運動にも力を入れたいと考えていた。篠塚のような教員が入ってくれれば、生徒の運動能力向上にも大いに役立つだろうと期待が寄せられた。篠塚は、体育担当と共に、学院の高校テニス部の顧問を任ぜられた。K学院の体育・保健教員、そしてテニス部顧問として赴任してから三年間の時が流れた。着実に実績を上げていた。篠塚は、学院では誰もが知る人気者の教師であり、篠塚の授業を受けられると聞くと誰もが心弾んだ。
 テニス部は篠塚が顧問になって以来、部員を倍に増やした。そのうえ、県大会で準優勝を飾るなど、これまでにない実績を上げるまでになった。実に順風満帆だが、そんな篠塚にも悩みはあった。
 それは、篠塚を知る多くの人々が不思議がる事柄とも関連する。篠塚は三七歳という年齢だが未だに独身である。誰もが不思議がった。彼ほどの男なら、もう結婚して子供がいてもいいはずだ。こんな二枚目で、オーラを放ったスポーツマンがもてないはずがない。現にもてている。女性教職員にとっても、女子生徒にとっても篠塚は憧れの的だ。学院内の女性は、学院長の野崎女史を含め篠塚を見る時は目を輝かせる。こんないい男、めったに会える者ではない。
 篠塚自身にとっても、それは悩みの種でもあった。どうして駄目なのか。篠塚は、自身の体の機能には問題がないと思っている。女性は好きだ。子供の頃からもてたので、これまで多くの女性と付き合ってきた。彼女たちに魅力を感じ、肉体的な関係を持ちたいと思うことも多々あった。しかし、それが、これまでできなかった。



 教師をしていた両親の元、育ったせいか、とても保守的な考えを自ら持っていた。ある種の硬派なタイプであった。なので、性に対して目覚め、関心を持つようになっても、それを表だって口にすることをはばかった。周囲もそんな環境であり、それが当たり前のように思えた。
 これまで、こんな経験があった。大学時代であっただろうか、恋愛関係にあった女性がいた。彼女に性的な魅力を感じて、つい肉体的な関係を迫ってしまった。彼女と彼女の部屋で二人っきりになり、キスをして抱き合い、ついには裸になりセックスをしようという段取りになったが、だが、抱き合うだけでなぜか終わった。彼の一物は、大きく勃起していたが、彼女のワギナにそれを挿入する行為には至らなかった。なぜか、篠塚俊雄は、セックスでそういうことをするということを知らなかったのである。
 それを初めて知ったのは、大学で保健の教科を学んだ時であった。セックスをすることによって女性が妊娠して子供が生まれるということぐらいは知っていたが、具体的にセックスで何をするかは知らなかったのである。
 ただ、一物が勃起するようになってから、それを手で上下に擦り、射精をする自慰行為(オナニー)は自然と覚えた。欲求がこみ上がると、いつもオナニーでことを済ませるようになっていた。だが、そんなこととセックスとはどう関連するかは、知らずじまいだったのである。
 だが、篠塚は、それでもセックスに対し積極的にはならなかった。そのようなことはふしだらなことだと思えてならなかった。淫らに女遊びをして、そんなことを自慢する連中を軽蔑していた。篠塚としては女性と結婚してから、することにしようと考えていた。そして、教師になってから数年が経ち三十歳という年齢に近付いた時、知人の紹介で見合いをして縁談がまとまり、結婚のてはずとなった。相手は良家出身の気だてのいいお嬢様だという。女性も、その両親も一目で篠塚を気に入ってくれた。篠塚も悪くないと思った。美人で上品さがにじみ出ている女性だった。教養もあり、それでうまくいくはずだと思ったが問題が起こった。それは、式の日取りが決まってから数日後のある夜、婚約相手の彼女が篠塚に体で迫ってきたのだ。夫婦になるのだから愛し合いたいと裸になって近付いてきた。彼女の裸は顔と同様に美しく魅力的だったが、彼女から迫られたこと、それも結婚の前だったということで、彼女に対して激しい拒絶感を感じるようになった。その場で彼女に対し激怒し、それは婚約相手をひどく傷つける結果となった。
 婚約は解消になった。篠塚は、それ以来、女性と付き合うことが非常におっくうになった。どんな女性であろうと恋愛感情を持つようになると離れてしまう。なぜか深入りできない。性的な欲求、下半身からこみ上がるものがあれば、自分の手を使い済ませるようにした。それでやり過ごそうと。教師という立場もあり、それが聖職であると自ら信じるからこそ、風俗などを利用する気には絶対になれなかった。
 つまりのところ、未婚だけでなく、篠塚俊雄は、三七歳になっても童貞なのである。

 そんなある日、篠塚は学校の勤務が終わり、校門を出たところで、ある若い女性に声をかけられ呼び止められた。長い髪に化粧が濃く水商売風の派手な服を着た女性だ。
「ねえ、篠塚先生、私、覚えている?」
と笑顔で言われ、その女性を見つめる。篠塚はしばらく考え込んだ。言われてみると、覚えがあるようだが。しかし、誰だか答えが出せない。
「夏美よ。覚えているはずよ、絶対に」
 夏美という言葉を聞いてはっとした。ああ、覚えている。前の学校にいた生徒だ。受け持っていた体育の授業の教え子の一人である。数多くいた教え子の中で彼女を一番よく覚えている。なぜなら、彼女は篠塚俊雄が学校を去る理由となった出来事の要因となったからだ。彼にとっては、思い出したくもない体験なのである。一瞬にして、とんでもない再会だと思った。夏美とは二度と顔を会わせたくなかったからこそ、前の高校を辞めてしまったのだ。それほどの出来事だったのである。
 篠塚は知らんぷりを決め込んで、そそくさと歩き続けた。
「待って、先生。私を避けないで。ここに来たのは先生に頼みたいことがあってのことなの。先生でないとできない頼み事よ。お願い、聞いて」
と夏美は言いながら、篠塚の腕にすがる。払いのけようとするが、必死ですがる。
「おい、待て。分かったよ。話を聞こう。ここでは何だから、どこか別のところに行こう」
と篠塚。周囲の目がある。とりあえず、どこかに行って、ことをおさめようと思った。

第2章へつづく

この小説の著作権は、このブログの管理者であり著者の海形将志に帰属します。
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テーマ:恋愛:エロス:官能小説 - ジャンル:小説・文学

| 02:17:33 | Trackback(0) | Comments(0)
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