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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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アレルギー小説「日本男児をやめられない」 第3章 太郎
高温多湿の日本に来てゴム・アレルギーにかかったカナダ人が体験する日本の伝統文化とは。

まずは第1章第2章を読んでください。

「いらっしゃい」という威勢のいい中年親父の声が発せられた。
中は、テーブルが3台ほどとカウンターのある狭いひなびた食堂だ。カウンター越しに、店主らしい大柄で太った中年親父が立っていた。
「お久しぶり、源さん」と百合子が声をかける。どうやら知り合いのようだ。
「おお、百合ちゃん、本当に久しぶりだ。何年ぶりだろうね、で、その人が、噂で聞いていたカナダ人の旦那さんかい」
「ええ、ジャックっていうの」
ジャックは、その源さんという人に、にっこりと微笑み「はじめまして、ジャックです」と挨拶した。
「ほう、さすが、百合ちゃんが選ぶだけあって、いい男だね」
百合子は、少し照れた顔をする。
「さあ、座って、百合ちゃんの旦那さん、ジャックさんも。今晩は、俺がおごるよ。丁度、いい魚が手に入ったんだ。百合ちゃんとの再会とジャックさんといういい旦那さんのお披露目を記念してご馳走してやるよ」
なーんだ、町の人はいい人じゃないか、とジャックは思った。百合子が言っていたほど、よそ者を嫌うというタイプではなさそうだ。ちゃんと接してみれば、打ち解けて貰えそうだ。
ジャックと百合子が席に座ると、源は酒の瓶とグラスのコップをテーブルに持っていき、酒をついでくれた。
「ねえ、太郎君はどうしてるの? 聞いたところによると、彼はイギリスに行ったとか」と百合子。
太郎? 初めて聞く名前だとジャックは、はっとした。誰だ?
「それがな、あいつ駄目な野郎で、結局、日本に舞い戻って来てしまっんだ。百合ちゃんのまねして留学しようと無理しちゃってよ。だが、あいつに外国暮らしなんてできっこなかったんだよ」
「じゃあ、ここに戻ってきているってこと」
そう言う百合子の口調と表情を見ると、何だかいわくがありそうだ。
「ああ、百合ちゃんが戻ってきたことも知ってるよ。だけどな、あいつ、恥ずかしくて会いたくないそうなんだ。何たって、百合ちゃんが、こんないい旦那を連れて帰ってきたんだもんな。会わす顔がねえよな」
その時、ガラーと戸が開く音がした。
「はら、噂をすればだ」と源が言った。
「太郎君、お久しぶり」と百合子が声をかけた。目の前には、百合子と同じ歳ぐらいの若い青年が立っている。いかにも地元の若者という感じのあどけない顔付きの男だ。その顔は源という男にそっくりだ。つまりは息子ということか。背は百合子と同じぐらいで低い方だ。だが、体格はがっしりとしている。
「久しぶり、百合子ちゃん」と太郎は返す。いかにも親しそうだ。太郎はジャックを見つめ、
「この人が百合子ちゃんの旦那さん」
「ええ、そうよ。ジャックというの」
太郎はかたい表情で見つめる。ジャックは、にっこりして「はじめまして」と一言。本来なら「お噂はかねがね」と言いたいところだが、全くの初耳の人物だ。なぜ、百合子は、この男のことを今まで話してくれなかったのか。その理由は、この男の表情と、この後に取る行動で読めた。



「百合子ちゃん、これどういうつもりだよ。俺に、これ以上みじめな思いをさせたいのか。大和撫子なのに、どうして、こんなガイジンなんかと結婚したんだ」
「太郎君」と百合子のすまなそうな表情。
「太郎、みっともねえぞ。仕方ねえだろう。百合ちゃんはな、このガイジンさんにいかれちゃったのさ。そういうもんなんだよ。おまえも少しは大人になれ」と源。太郎の目から涙がぼろぼろこぼれはじめた。
「おい、日本男児のくせにみっともねえぞ」と源が怒鳴り声を上げる。太郎は、即座にその場から離れ、走り去った。
百合子は、走り去るのを見ながら同じく涙をこぼす。
「どうしたんだよ、ユリ」とジャック。
「ハ、ハ、ハ、ジャックさん、あんたは大和撫子と日本男児、どっちも泣かすとは、たいした野郎だね」と源。むっとする言葉だ。
「行きましょう」と百合子は、ジャックの腕を取って、店を出ていった。しばらく歩き、暗くなった海岸に辿り着いた。
「事情を話してくれるよね、どういうことなのか」とジャック。
百合子は話した。
太郎とは、同じ町で育った幼馴染みだ。太郎は源という漁師であり、また「日本男児」という食堂を経営する男の息子である。子供の頃から、二人は大人になったら結婚しようと約束していた。だが、百合子が、たまたま、高校の英語スピーチコンテストで最優秀の賞を貰い、カナダへの留学奨学金を受けたため、カナダに大学留学をすると決意。そのことで事情が変わった。高校を卒業したら大学に行くつもりだった。だが、日本の大学に行くのでは、学費がかかり、かえってお金がかかる。奨学金だとただであるし、外国の大学を出て英語が喋れるようになるのなら、自分の人生のためにも有益だと思ったのだ。卒業するまでの間、離れることになるけど我慢して、と太郎に告げてカナダに渡った。
 だが、そのカナダでジャックと出会い、恋に落ち結婚。百合子が結婚後、日本に帰りたくなかった理由の一つに実をいうと太郎の存在があったのだ。
 太郎は、百合子がカナダで結婚をしたことを知って、すごいショックを受けたそうだ。カナダに行って、百合子を奪い返そうとさえ思ったらしいのだが、ジャック相手にもの申すためには英語ができないといけないと考えた。英語を勉強する決心をしたのだが、太郎は英語が大の苦手であった。なので、百合子やジャックに負けないほどに英語ができるようになるため自分でお金を貯め、1年前イギリスへ語学留学をしにいったと聞いた。だが、どうやら帰ってきたということ、そして、惨めたらしい再会をすることに。
「ごめんなさい、話してなくて」
「いや、いいよ。話しにくかったのは分かるから」

ジャックは思った。こりゃ、やっかいだなあ。何とか、あの太郎とは、この町にいる間、顔を合わさないようにするか。

第4章へつづく。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

和装 | 17:00:40 | Trackback(0) | Comments(0)
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