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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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アレルギー小説「日本男児をやめられない」 第4章 六尺褌
高温多湿の日本に来てゴム・アレルギーにかかったカナダ人が体験する日本の伝統文化とは。

まずは第1章から第3章までお読み下さい。


ジャックは海水浴がしたくなった。日本の夏は暑い。ただ暑いだけではなくカナダと違い、湿気が強いのだ。だから、汗だくだくとなる。部屋でクーラーをがんがんに入れて過ごすのもいいが、スポーツが好きなジャックにとっては、家の中でじっとしているのは我慢できない。翻訳の仕事が一通り終わり、どうしても外に出たくなった。

百合子は海水浴を薦めた。ジャックにとっては海水浴は生まれて初めての体験になる。なぜなら、ジャックが住んでいたモントリオールもトロントも海はない。湖や川はあるのだが、そこで泳ぐということはあまりしない。泳ぐといえばプールだ。

海岸の町に来たのだから、海水浴も悪くないと思った。日本人にとって海水浴は、高温多湿気候のむさ苦しさから逃れるためにあるように思える。

だが、問題があった。ラテックス・アレルギーだ。海水パンツを買って着てみたが、すぐにアレルギーの症状がウエスト辺りに出てきた。これでは駄目だ。ゴムのない海水浴着はないものか。となると、? だが、下着として身につけているは、海水浴に合うとは思えない。水の中に入るとゆるゆるだ。特に長い前垂れが波にさらわれやすい。

だが、ゴムの入った今の海水パンツを着る前に日本人は、どんなものを着て海水浴をしていたのか興味を持った。それ用のがあったのではないか。ネットで調べてみると、思った通りであった。同じでも種類は違うが「六尺」といわれるもの。長い布を股と腰に巻き付けるように身につけるらしい。身につけ方は、長細い布を股の間に通して、布をねじり細いロープのようにして背中の尻の割れ目の上辺りで曲げる。そして、またねじりながら、ウェストを一周して、尻の割れ目の上当たりに戻すと、そこで交差する形に結びつける。まるで、折り紙や風呂敷包みの技を応用したような身につけ方だ。



ジャックは、呉服屋に行き、六尺が欲しいと伝えると、呉服屋の店主は、ロール上に巻かれた長い黒布を取りだし3メートルほどで切って渡した。
「今時、こんなものを身につける人はいないけどね」と店主は言った。
ジャックは、なぜ日本の褌はこんな布きれ一枚でできているのかと訊くと、店主は、それは生地が貴重品であった時代の名残であると説明してくれた。着物と同様に長方形の生地を反物からまっすぐ切り取り、その形のまま使うのが、一番無駄のない使い方とされたからだ。着物は、そんな長方形の生地を組み合わせてあのような形となってるのだ。
生地を多く使ってるようで捨てる部分が残らないようにする使い方ともいえる。
昔の人ならではの知恵ともいえるか。

ネットで見つけた六尺褌の付け方を真似、つけてみた。四苦八苦の末、何とか身につけられた。パンツのように足首から上げて履くのと違い、布を自分の体に合わせ巻き付け、体から離れないように締め込むのは実に面倒な作業だ。自分の体に密着したつけ方が分かるのに30分を要した。

着てみると、明らかに海水パンツとは感覚が違う。尻がむき出しになった状態で、股から尻の割れ目に沿うように布がぴったりと張り付く。というか、布が尻の割れ目に食い込んだ形だ。それが何とも言えない感覚を与える。まさしく「締める」という感覚だ。不快といえば不快だ。

ああ、これは相撲取りの回しに似ている。相撲取りもこんな感覚で、相撲をとっているのか。だが、この格好で水の中に入るのである。どんな感覚なのか。

ジャックは、一人海岸の人の少ない場所へ行った。歩いて数分ほどで、静かで小さな浜辺を見つけた。晴れ渡った日、誰もいないところだ。どうして、そういうところに行ったかというと、尻を丸出しの状態で人目にさらされるのを避けたいからだ。この点、下着としての褌とは違う。おまけにジャックは外人だ。好奇の目に普通以上にさらされる身である。

百合子にも見られたくなかったので、彼女がいない間に、試すつもりで誰もいない海岸にやってきた。さあ、入るぞと波打ち際に近付くと、後ろから声をかけられた。それも英語だ。日本人の話す英語だ。
「そういうものって、あなたたちにとっては野蛮なウエアなのじゃない?」
振り向くと太郎がいた。



「やあ、こんにちは」とジャックは苦笑いで挨拶した。会いたくない奴に会いたくないシチュエーションで会ってしまった。だが、驚くことに太郎は同じ六尺を身につけている。赤いだ。
「君も海水浴に来たのか」と英語できいた。
「イエス。このトラディッショナルなスイムウエアをつけてね。君もどうして、そんなものを」
「日本に来たのだから、日本の水着をつけようと思ってね」と誤魔化すつもりで言った。
「今時、日本人だって、これを水着として身につける者なんていないよ。第一、ほとんどの日本人が身につけ方さえ知らないのではないか。俺だって最近、知ったばかりだ」
「どうしてをつけたいと思ったんだ」
「日本人としてのアイデンティティを失わないようにするためさ」
太郎はジャックを睨みつけて言う。そして、海の中に走って入っていった。筋肉質でがちっとした体格に赤で締め込んだきりっとした尻が、太郎のいわんとする言葉を如実に物語っていた。太郎についていくようにジャックも海の中に入った。
「君は僕に嫉妬しているのか。僕が百合子を奪ったとでも思っているのか」
太郎に追いつき、二人は海水に肩まで浸かった状態だ。
「西洋人が日本にやってきて、西洋文化の優越性をひけらかし、日本人にコンプレックスを植え付けたんだ。なんでも西洋のものがいいと思わせて、日本の伝統文化を衰えさせてしまった」
と太郎は日本語で言った。
「それと百合子とのことがなんの関係があるんだ? 百合子が、僕が西洋人だから選んだと思うのか」と日本語でジャックは返す。
太郎は、しばらく押し黙った。そして、
「すまない。あんたを責めるつもりはなかった。ただ、ただ、悔しくて。彼女のことがずっと好きで。彼女と結婚できると思っていた。だけど、こんなことになってしまって。俺ってみっともないな。だけど、あんたが日本人ではなく外人だから、日本人としては、どうしても悔しいんだ。コンプレックスってやつだよ。文化の差で負けたんだと思うと、より悔しくなって。イギリスにいたけど、西洋の人って、西洋以外の国のことは知らないし、見下げているだろう。あんただって、そんな西洋人だと思えると、とっても悔しくて」
「僕は違うよ。日本語も勉強したし、日本の文化も学んだ。日本語も日本も好きさ。百合子は、百合子さ。彼女は素晴らしい女性だ。日本人だからというわけではない。君にはわるいが、そんな彼女に会って僕は好きになった。彼女もそれに応えてくれた。ただ、それだけさ」
ジャックは必死になって言った。すると太郎は、突然、にこっとした表情になった。
「そうだよな。彼女があんたを選んだまでということか。それが事実なんだろうな。それを素直に認めるしかねえんだろうな」
太郎はそういうと浜の方に戻っていった。ジャックは海に浸かったまま、その姿を眺めていた。ジャックは、何となくいい気分に浸っていた。というのも、をつけた状態で海中にいると、海水パンツよりも気持ちいいのだ。尻に水を感じる感覚が実に気持ちいい。これはいい水着だ。
浜辺に着いた太郎はジャックの方を向いて言った。
「ジャックさん、、似合っているよ。悔しいけど格好いいよ」
そして、太郎は浜辺から去って行った。

海水に浸かりながらジャックは考えた。日本人は西洋人にコンプレックスを抱くものなのか。だからこそ、褌を着なくなったのか。機能性からいえば、西洋のパンツの方がいいのだろう。だが、伝統を継承していくという意味では、違った考え方もある。

伝統の継承といえば、ジャック自身にとっても身につまされる想いがある。それは、ジャックがフランス系カナダ人であることだ。同じカナダ人でもフランス系は少数派だ。ケベック州には主にフランス系移民が渡ってきた。だが、大半を占めるイギリス系に比べ、政治的に不利な立場にある。それは建国以来ずっとそのような状態だ。いざ、ケベック州を抜けると、北アメリカは英語のみの世界だ。フランス語を母国語とする自分たちは不便に付き合わされる。一時期、独立運動さえ盛り上がったほどだ。ジャックの両親は、そんな不利な立場にあることを考え、ジャックには学校で英語での教育を受けられる環境に置かせた。大学も英語で学べるトロントの大学に行くことになった。その方が、有利ではあったが、同時に自らの民族的アイデンティティが削ぎ落とされてしまった結果も否めない。

日本人と妙な共通点があるのだなと感じてしまった。


第5章へつづく。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

和装 | 17:14:54 | Trackback(0) | Comments(0)
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