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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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アレルギー小説「日本男児をやめられない」 第5章 祭りの褌
高温多湿の日本に来てゴム・アレルギーにかかったカナダ人が体験する日本の伝統文化とは。

まずは第1章から第4章までお読み下さい。


ジャックは百合子と泰蔵に六尺褌を着て海岸に行き、太郎に出会ったこと、太郎に言われたことを伝えた。
「へえ、太郎がそんなことをね」と百合子。
「六尺か、わしも昔つけていたな。子供の頃は、海水浴は褌じゃったよ。褌ならば溺れていても、つかみやすく助けられるからな。それに、祭りでもな」と泰蔵。
「祭りって? 夏祭りのこと?」と百合子が不可思議そうな顔を。
「そうじゃぞ」
「うそ、祭りで褌なんて見たことないわ。下はハンダコという短パンをつけて、上は腹巻きと胸から上が裸になるんでしょう」
「おまえは覚えてないかもしれないが、おまえが物心つく前ぐらいは、祭りでは御輿を担ぐ男共は、全員、褌じゃったんだ。腹巻きのさらしは褌にくくりつけていた。その格好で、海渡りもしたんじゃあ」
「へえ、そうなの。初めて知ったわ」
ジャックは「夏祭りですか、今年もあるのですか?」と訊いた。
「ああ、そうじゃよ。確か、今年は順繰りでわしらの家が大将と幹事をすることに」
「え、そうなの?」と百合子。ジャックは興味津々になった。
「そうじゃぞ、しかし、褌をみんなしなくなって、面白くなくなったな。本来、祭りでは、御輿を担ぎ、男衆が海を渡り、無病息災、大漁を神様に願うことになっているのじゃ。祭りが始まった時代は、漁師は皆、褌をしていた。だからこそ、伝統にしたがって、褌を締めるものなんじゃが、時と共に恥ずかしがる若者が出てな。尻を丸出しにするのが恥ずかしいからだってな。昔は、誰も恥ずかしがらなかった。そもそも、ああいう格好をさせることに意義があるものだったんじゃ。男たちの体を見せて、女たちはそれで自分の好みの男を見つけだしたものじゃ。死んだ母ちゃんも、わしの尻を見て、わしと一緒になりたいとおもったと言ってくれた」
「へえ、そうだったの」と百合子が驚きの表情。ジャックも驚いた。

どうして、褌を日本の男は恥ずかしがるようになったのか。ジャックはネットで調べてみることにした。それで分かったことは、太郎が言ったように、日本人のライフスタイルの西洋化が原因の一つとして大きかったみたいだ。19世紀後半から、日本は欧米に見習った近代国家になるため、積極的に西洋文化を採り入れた。その結果、着物から洋服へと着るものを変えていった。そのため、前垂れのある男子の下着としての褌は、ズボンには合わずパンツに変わっていった。

水着としての褌は、西洋人からすると、海岸やプールで尻を丸出しにする格好は、野蛮で恥ずべき姿に映った。かつてオリンピックで日本人選手は練習では褌をしていたが、実際の競技では海パンに着替えたという。

また、工業化が進み既製品として海パンが安価で買え普及することで廃れていったという。かつては、庶民にとっては褌を着るしかなかった。その意味で身につけやすい海パンは普及しやすかった。確かに、トイレに行くたびに褌では外したりつけたりと大変だ。


今では、褌といえば、相撲取りがつける回しとして、そして、一部の祭事でのみ一種の見せ着として男が着用することになっているが、祭事ごとでは、褌は見られなくなってきているという。着ることが少なくなると共に、見ることも少なくなっているので、見せる側も見る側も恥ずかしいと感じるようになっているからだ。なので、褌に替わり、尻と太股を覆うハンダコや股引が主体となっているらしい。

だが、祭りというのは、ある種の伝統を引き継ぐものだ。それを変わりゆく時代にそぐわないからといって捨てていいものなのか。太郎が言っていたように、アイデンティティの問題でもある。日本人は、そんなことを平気でするのか。


翌日、太郎の父親の源が、訪ねてきた。なんでも来週開かれる夏祭りの幹事の引き継ぎをするために来たのだと。今年は順繰りで、二十数年ぶりに、泰蔵と百合子の家に、その役が来たんだという。というのは、源の家と泰蔵の家は、どちらも地元の漁師であり、地元の神社の氏子でもある。氏子の家は、毎年、順繰りで祭事の執り行いの役を担う。
それは、その家の当主とその長男、もしくは娘婿がする役割になっている。幹事になったからには、祭りの目玉イベントである御輿の海渡り担ぎで、御輿の担ぎ棒の先頭にいき掛け声をかけ一行を率いらなければならない。

だが、源は、ジャックに対して、こう言った。
「しかし、大丈夫かな。泰蔵さんは元気ないようだし、それにあんたは外人だからな」



その言葉にジャックは、むっとした。
「できますよ。バカにしないで下さい」
「いや、これって日本独自のものでさ、あんただと宗教とか習慣の違いとかあって嫌なんじゃない」
と源さん。気を遣っているつもりらしい。
「いや、大丈夫。そういうことは分かっているから」
とジャックは答えた。宗教に関して言えば、ジャックは一家の伝統でキリスト教のカトリック派だが、実際のところ、教会に行くのはクリスマスを含めて年に数回程度。敬虔なクリスチャンではない方だ。その辺に強いこだわりはない。それに日本文化を学ぶに当たって、神道が宗教というよりも、お祭り的な行事として認識されていることを知っている。それは日本の首相がクリスチャンや仏教徒であっても、伊勢神宮に参ったりすることでも分かることだ。日本の神道には、強い信仰的な教義はないものとされていると聞く。神道は、神といっても多神教で、キリストだけを唯一の神とする宗教とは違い、柔軟に神を受け止めてもいいことになっている。それは、アメリカ大陸先住民に受け継がれている自然信仰の原始宗教と似通っているところがある。古代のシャーマニズムが変化した形だという捉え方もある。

この町の夏祭りは、江戸時代に大津波が町を襲い、神社にまで浸水して、神社の御神体が津波が引くと同時に沖まで流されたのを、当時の漁師たちが海から神社まで担いで戻した出来事を起源としているという。

さて、その翌日、町の人々が集まり、祭事についての打ち合わせの集会が行われた。百合子も幹事をする一家の一員として参加している。主に氏子だが、それ以外に、御輿を担ぐ役を担う男衆の若者から中年、中高年の男たちも来ている。源と太郎もその中にいる。

神社でお清めの儀式を執り行い、その後、海岸近くまでは、老若男女入り交じり御輿を担ぐ。だが、海岸近くから浅瀬まで担ぐ「海渡り」に関しては男たちだけの役割になる。

ジャックは、その辺りの打ち合わせとして幹事としての提案をした。この祭りの責任者としての提案だ。そして、それを身を以て示すため、着ていた浴衣を、その場で脱いで、それを見せた。ジャックは立っていて、他は畳に座ってそれを見上げる。
「今年は、この格好で海渡りを行います」
一同は唖然とした。
「おい、おい、これって褌じゃないの」と声が。
ジャックは、白い六尺褌に腹巻きをつけた姿になっていた。褌と腹巻きの身につけ方は、ネットで見つけ、腹巻きは一人で出来ないので百合子に巻き付けるのを手伝って貰った。実際の祭りには、それに加え、頭に鉢巻き、足に地下足袋を身につけることになる。


「ジャックさん、なんだってそんな格好を」と太郎が言う。
「これが、このお祭りの伝統的な格好だからね」
「え、そんな、なんで外人のあんたが、そんなことを提案するんだ」とある男。
「僕は、この祭りの幹事を任されたから、祭りを盛り上げたい。みんなに楽しんで貰いたい。御輿を担ぐ人も、それを見る人達にも」
「だからって、こんな尻丸出しで、そりゃないわ」と若い男の声。
「やりたきゃ、あんただけすればいいやろ」と別の若い男の声。
「いや、全員です。全員、この格好で海渡りをしてください。そうでないと祭りの儀式としての意味がない」とジャック。
「外人のあんたにいわれとうない」とある男。
「ほう、それじゃあ、そういうあなたたちは日本男児といえるのですか。何百年も続く、この伝統行事の形を変えて平気でいられるのですか。僕を外人、外人とよそ者扱いする前に、自分たちこそ、どれだけ自分たちについて分かっているのですか」
ジャックが、そう言い返すと、一同はシーンとなった。
太郎が立ち上がって言った。
「ジャックさんの言う通りだ。俺たちは、この格好で御輿を担げないのなら日本男児ではない。町にとって、大事な伝統行事で古くからの習わしを忌み嫌ってしないようでは、祀られている神様に対しても申し訳が立たないというもんだ」
一同は、さらにシーンとする。すると百合子が
「太郎のいう通りよ。立派だわ。今この場で、日本の伝統を真に理解しているのは、太郎と私の夫、ジャックぐらいよ。偉いわ。それに女性としては、男たちのお尻は、とっくりと堪能したいわ」と百合子が応戦するように言った。すると、
「百合子、わしも加えろ。わしは、いい婿を持ったと思うぞ」と泰蔵が続いて言う。
「わしがジャックぐらいの頃は、祭りでは男は、みんな褌を締めちょった。みんな一緒に海で腹巻きと褌を濡らして担いだものじゃ。それで一心同体となったものじゃ。そんな時がもっとも輝いていた」
泰蔵は元気そうな表情でいう。目が潤んでいる。何だか元気が満ちているようだ。

そして、御輿を担ぐ男衆は全員、白い鉢巻き、腹巻き、褌、地下足袋をつけて、海渡りの儀式にのぞむことが決まった。

最終章につづく。
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和装 | 14:16:32 | Trackback(0) | Comments(0)
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