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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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社会教訓小説2: ふれあい商店街 第3章 ウォーリー商店街
失われた地域コミュニティが問いかけるものとは。

まずは第1章第2章をお読み下さい。

「潰すって? なぜウォーリーがあなた達を潰すっていうのです?」
と真知子が言うと、
「聞かなくても、知っておろうが。大量の商品を安値で売って、商店街の店をどんどん閉店に追い込んでいるんだろうが」
「それのどこが悪いというのです。消費者は、品揃えが豊富で安い商品からものを買いたいと思っているのでしょう」
「そのおかげで、我々の店が潰れてしまい、皆が路頭に迷うことはどうとも思わないのか」
「それはビジネスですから、そんなことを理由に店を開くなっていうのは・・・」
「そんなことだと?」と眉間に皺を寄せて詰め寄る店主。
「マスター、若い子相手によしましょう。今時の娘にそんなこと言ったって無駄よ。どこもかしこも、ウォーリーのような大きなスーパーが出来て、商店街が潰れてしまったんだから。次は私たちってことよ。私たちは、最後の最後になって消えてしまうってことなんだから」
落胆気味な中年女性。
「おい、まだあきらめるな。そのためにみんなで団結したんだろう」
「だけど、もう建設が始まっちゃっているよ。それに、この子のような社員が仕事をしているし」
店主は深刻な表情になっていた。中年夫婦は憔悴しきった表情。さっきまでの明るい雰囲気とは、うって変わっての状況。
きまずくなった真知子は店を出た。変な気分に襲われた。自分がウォーリーマートの者だと分かった途端の豹変ぶり。彼らの主張は訳が分からない。ビジネスなんだから、仕方ないじゃないか、自然淘汰の市場原理だ。より安くてより良い商品を求める消費者の期待に応えるのがビジネスのモットーとすべきところ。売る側に合わせて品揃えや価格が決まるのではない。
新しい競合相手が出てきて目障りなのは分かるが、そんなこと、どの業界でもあることだ。小売業界なら尚のこと。自分たちが負け組になるからといって、僻んで貰っては困る。ならば、対抗できるだけの努力をすべきではないのか。
黄色い旗が街灯にはためく商店街を見ながら思った。軒を連ねる店舗は、小規模でスペースも限られている。価格もウォーリーマートで見かける額よりも高い。こんな体制を守っていきたいと思うのは勝手だが、買う側には選択肢がある。競合相手が出たからといって、文句を言って追い出そうだなんて筋が通らない。

いったいこんな商店街のどこがいいというのだろう。真知子は、子供の頃から、ものを買うといったら、日用品は主にコンビニ、それ以外は大型のスーパーやデパートでだ。こういう商店街ではめったにものを買わない。そもそもあまり見かけない場所だ。

こんな商店街のどこがいいというのだろうか。でも、スーパーやデパートのような大型の小売店が一般的になる前は、こんな小さな商店街で買い物をするのが当たり前だったという。そうだ、1号店によく来る痴呆のお婆さんの時代だ。あの世代の人々には懐かしいのだろう。真知子の世代にとっては珍しい世界。小さな店が軒を連ね、あんな感じの人達が、それぞれの店を営んでいる。人情味があるとかいうのだろうか。

そうだ、真知子はふと思いついた。それだ。新ブランドの提案だ。商店街の幻影だ。それを新ブランドのイメージに使うのだ。

真知子は、オフィスに戻り、さっそく考えついた新ブランド案の企画書製作に取りかかった。

それから1ヶ月が過ぎた。真知子の企画は承認を得て、パイロット商品が売り出されることになった。意外でユニークな発想だということが承認の理由らしい。牧野部長も強く推したという。まずは、どこまで消費者の関心を惹くかだ。マスコミにも宣伝をした。第1号店の拡張店舗で、試行されることになる。フロアのレイアウトも、新ブランドのコンセプトに合わせるように組み立てたという。これで、見事に名誉挽回できる。

なんでも、拡張店舗オープン初日には、アメリカからウォーリーマート・ジャパンの新社長になる人が来るそうだ。長年、日本人だがアメリカで流通業界にいて、最近になってウォーリーマートの日本での業務を主導するため社長に就任したそうだ。名前は、岡村達也と聞いた。

新ブランド名は「ウォーリー商店街」だ。


いわゆる手作りと人情味をブランドイメージにしている。デザインを商店街で商品を買うのが当たり前だった昭和時代のレトロ感覚をコンセプトに、その時代の商品の絵柄やデザインを模して、古い世代の人達には懐かしく、そんな時代を知らない世代の人々にとっては珍しさを売り物にブランドイメージをアピールする。もっとも、商品の中身や値段は今までと変わりない。変わるのは主にパッケージだ。洋服だと服のデザインが変わる。だが、そのまま再現では古くさいというイメージになってしまうので、今風にアレンジしている。

ただ、商店街と銘打ったのだから、売り方に工夫をした。それは、店舗のフロアレイアウトを商店街のような区切りにしたのだ。敢えて、商品の種類ごとに仕切を立て、その仕切に昭和時代を思わせるデザインの絵柄をペイント、飾りなどをつけた。まるで古い時代の商店街に迷い込んだような造りにした。ある種のレジャーランド感覚だ。店員には昭和時代を思わせる制服を着せている。できるだけ感じ良くするようにと教育した。そして、フロアでは、昭和時代を思い起こさせる音楽を流した。

マスコミで話題になったせいもあって、多くの人々が新フロアにやってきた。皆、物珍しそうに見ている。売れ行きも好調のようだ。真知子は快感だった。これで主任の地位は保全された。それどころか、さらに上の出世も可能かもしれない。
「あら、ここに商店街があるじゃない」とお婆さんの声。痴呆のお婆さんが来ていた。お婆さんは、ニコニコの表情だ。ああ、やって来た。真知子はご機嫌になって、そのお婆さんに声をかけた。
「お婆ちゃん、いかがです。やっと商店街を見つけましたね」
「そうだね、ここが私がいつも来ていたT商店街だわ。やった見つかったわね。どうして今まで見つけることができなかったのかしら」
普通に見ると、本物の商店街などには見えない。そういう雰囲気のフロアデザインだということが分かるものだ。だが、このお婆さんには、そう見えてしまうのだろう。だとしてもいい。それこそ、自分の企画の成功を意味するのだから。
「さあ、お婆ちゃん、商店街を案内してあげるわよ」と真知子は嬉しくなり親切に接した。いろいろなところを指差しながら案内している最中、社員連中が騒がしくなり、その視線が入り口から入ってくるフォーマル背広をまとった数人の集団に注がれているのが分かった。牧野部長もその中に紅一点としていて、同行しているのは、あ、写真で見て知っている新社長の岡村達也だ。
「ねえ、岡村屋って雑貨店はどこにあるんだろうかね。私は、いつも必ず、そこに行くんだよ。で、そこでね、岡ちゃんに挨拶しにいくの」
そう言っているお婆さんの独り言をよそに、真知子は、新社長に目を留め、近付くと深く礼をした。
「彼女が、この企画を打ち立てた篠原真知子です」と牧野部長が新社長に真知子を紹介する。
「初めまして。お会いできて、そのうえ、新企画のお披露目の初日に来てくださいまして大変感謝いたしております」
真知子は、人生で最高の日だと感じ、はつらつと話した。これぞ、自分を売り込む最大のチャンスだ。いずれは、自分がこの人にとって替わる人物になるかもしれない。
「ほう、君が、新ブランドの発案者。若いのによくやるね」
岡村社長は40代後半ぐらいの人だ。メガネをかけ、インテリぽく、スーツが似合い、日本人だがアメリカのビジネスマンといった印象を受ける。真知子に好感の眼差しを向ける。真知子は、どんどん話し込もうと、口を開こうとすると
「お、岡ちゃん、あなた生きていたのね。てっきり噂で死んでしまったなんて聞いていたけど。あれは嘘だったのね。よかったわ」と突然、老婆が社長に話しかける。老婆の表情はうるうると目が輝き、嬉しそうだ。まるで、その社長に再会したかのような態度だ。知り合いなのだろうかと真知子は思った。
「な、何を言っているのかね。この人は」と社長。表情が突然、変わった。驚きと同時に憎しみのような眼差しを老婆に向ける。
「岡ちゃん、忘れたのかい。今から、久しぶりにあんたの岡村屋に行こうとしていたんだよ。私は必ずあんたの雑貨を買ってただろう。先代から付き合いのある岡村屋だもの。孫のためのおもちゃでも買おうと思ってね」
「知らん、こんな人、知らんぞ。君の知り合いかね」と社長が真知子にきく。
「いえ、違います。この人はお客さんで、実を言うと呆けている人なんです」
と真知子は答え、気まずい気分になった。何てことなの、せっかくの場が、どうしてこんなことに。このお婆さんの呆けになど、付き合ってられないわ。
だが、老婆は岡村社長に詰め寄る。そして、小柄な体を社長にさらに近付け、腕を取り、抱きつこうとする。なんて大胆なことを。
「忘れちゃいけないよ。私は、いつだって忘れちゃいないよ。この商店街の人はみんな私の仲間だったもの。家族のようなものだよ」と涙を流しながら言う。正気の沙汰ではない。
社長はつかまれた腕を振り払った。老婆は床に倒れる。
「痛い」と老婆。倒れ込んで泣きながら立ち上がろうとしない。社長は、取り巻きと一緒に、さっと店を出ていく。辺りでは、この騒ぎを物珍しそうに眺める人々。

一体何が起こったのだろうか。真知子も訳が分からなかった。この老婆は社長を「岡ちゃん」と馴れ馴れしく呼んだ。岡村社長だからだろうか。知り合いだったのか。呆けていたとしても、いくらなんでも初対面の人を、そんな風には呼ばないはずだ。でも、長年、アメリカにいたという社長とこの老婆はどうやって知り合ったというのだ。それに「死んだ噂」とか「雑貨店の岡村屋」とか、なんとも不可思議な言葉を発していた。どういう意味だ。

社長が取り巻きと共に消えると、辺りが静まり、倒れ込んだ老婆も、いつの間にかいなくなっていた。真知子は呆然としていた。せっかくのチャンスが台無しに。

翌日、予想通り、とんでもない通知が真知子のところに来た。
「新ブランド「ウォーリー商店街」企画は中止」「篠原真知子は商品開発部主任を解任、そして、倉庫管理部に異動」

第4章につづく。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

軽小説 | 17:43:56 | Trackback(0) | Comments(0)
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