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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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社会教訓小説2: ふれあい商店街 第5章 ルサンチマン
失われた地域コミュニティが問いかけるものとは。

まずは第1章から第4章をお読み下さい。

真知子は、倉庫の仕事が終わった後、普段はしないスカーフとサングラスをつけ、昭和商店街に向かった。ある種の敵情視察である。新店舗の開店に反対する人々の行動を探り、何か耳寄りな情報があれば報告し、それにより自分の社に対する忠誠心を示したうえで、自らの復活を模索するのだ。

そして、ちょうど、その日、とても耳寄りな情報を聞いた。商店街の近くにある公民館で店主たちが寄り集まり集会をするというのだ。何でも、アメリカから大学教授を招いて講演会を開き情報交換をするのだと。

公民館に行った。アメリカから来た大学教授は、社会学者のグレン・フィールドマン博士、消費者運動活動家であり、反ウォーリーマート活動家でもあると自己紹介した。通訳付きで講演が始まった。

「皆さま、お招きいただきありがとうございます。ウォーリーマートは、アメリカをはじめ日本を含む世界中に五千もの店舗を持つ巨大小売チェーンです。世界中の誰しもが知る小売ブランドで、ある種のグローバル化の象徴といえましょう。そして、発祥の地、アメリカをはじめ、世界中が、そのウォーリーマートによるグローバル化に呑み込まれています。

ウォーリーマートが進出した町は、低価格競争に敗れ、地元の個人経営の商店を次々と破産に追い込ませます。破産により職を失った元店主やその店員の人々は、やも得ずウォーリーマートで働くことになるのですが、低賃金で劣悪な環境での労働を強いられます。そんな過酷な労働を強いられた上で、会社の都合で簡単に職を奪われ路頭に迷う結果になるのです。

消費者にとって低価格で豊富な品揃えというメリットと裏腹に、そのような犠牲が下敷きとなっていることを忘れてはいけません。

また、必ずしも消費者にとってメリットがあるともいえない面もあります。地元の個人商店が姿を消すということはコミュニティそのものにも大きな影響を及ぼします。ウォーリーマートをはじめとする小売チェーンのせいで、アメリカはどこも似たような風景に変わっています。それは、どこにいっても、ウォーリーマートの看板しかみられず、ウォーリーマートで売られている商品しか目にしないという状況です。地元独自の商店街が作りだした独自の看板による町の風景が消えていくという現象です。

安い商品が手に入るからいいではないかという意見も聞かれますが、その安い商品の多くは、賃金の安い中国や東南アジアの海外での製造拠点で生産されたもので、結果、アメリカ国内の産業を空洞化させ、多くの労働者の職を奪い、失業者を増大させることとなりました。

また、海外の製造工場では、驚くべき長時間労働、児童労働など、緩い環境基準で本国では認められないような人権侵害ともいえることをウォーリーマートをはじめとするグローバルな企業は堂々と行っています。

私は、皆様のような、そのグローバル化の波に負けず、自らのコミュニティを守り、長い目で見て多くの人々の利益にかなうことをしている人々を応援しています。多くの人々は、気付かずにいて、目先の利益や便利さばかりにとらわれているのです。

例えば、ウォーリーマート・ジャパン社長のミスター・オカムラもその一人と言えましょう。


ここにミスター・オカムラが書いた論文があります。彼がアメリカで流通業を学ぶため在席していたビジネススクールで書いた論文です。実をいうと、ミスター・オカムラはウォーリーマートの日本第1号店の進出で店を破産させられた店主の息子でした。論文でそのことを綴っており、「小規模のパパママ・ストアは非効率な流通の末、消費者に高価格で限られた種類の商品しか提供できない。そのため多くの消費者が不利益を被っている。私の家族の店も、そんな非効率な営業しかできず、市場競争で負けてしまった。だが、当然の報いであったといえよう。それが資本主義の原理なのだ。どの商品を買うかは、消費者が決めることだ。より安くてよりいい商品を消費者が求めるのは当然のことだ。それに対抗できるものをもっていないことを恨んでいても、世の中は進歩しない」と書かれています。

自らの家族の店を倒産させられた人が言うこととは信じられないでしょうが、ある意味、これが彼のルサンチマンの解消法だったのかもしれません。

ですが、彼の言うことに残念ながら論があるのも事実です。対抗できるものをもっていないことをただ恨んでいてはいけません。私たちは反対運動をするだけでなく、消費者を啓蒙し、または、対抗する相手がもっていない付加価値をしっかり作りださなければならないのです。あのウォーリーバリューにかなうだけの商品を作りださないといけません。

消費者の中には、安ければいいものではないという考え方は近年広がってきています。また、消費者も、商店を経営していなくとも、まわりめぐって、資本主義経済の中の1生産者であるということに気づけば、安易にウォーリーマートで買い物をすることをしなくなるというものです。結果、自らが職を奪われる結果になるかもしれないからです。また、町の風景が画一化され、独自のコミュニティも奪われるという事態は、抽象的でありながら、お金では代えられない生活に大事なものを失うということでもあるのです。

ただ、どうしても安くて豊富な品ぞろえの誘惑は強いものです。最近は、各大手流通業界はウォーリーバリューに象徴されるような独自ブランドを作りだし、さらなる流通の効率化を進めています。そなるとますます手ごわいです。

そのためには、一体どうすればいいか、私を含め多くの消費者運動をする人々が考えあぐれているところです。皆様と手を結び、いい答えが見つかるのではと期待してきました。」

さて、講演が終わり、質疑応答の時間になった。
「え、フィールドマンさんのスピーチに何かご意見やご質問ございましたらどうぞ」と司会の人が言う。
しばらく、会場がそわそわしている中、真知子が手を挙げた。

「フィールドマンさん、いいスピーチでした。私は真知子といいます。是非とも、フィールドマンさんと皆様に聞いていただきたいことがあります。安くて豊富な品ぞろえのウォーリーマートで売られているウォーリーバリューのような商品、それに対抗するものといえば、それは、こちらも同じものを作ればいいということではないでしょうか。そして、それは可能だと思います。私たちもウォーリーバリューのようなものを作ればいいのです」

真知子はミイラ取りがミイラになった気分でそう言った。

第6章につづく
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

軽小説 | 16:48:30 | Trackback(0) | Comments(0)
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