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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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「ヨーソロ、三笠」 第9章 平和主義者
平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第8章までお読み下さい。

 不思議なタイムスリップ入隊から数週間、思いのほか、艦での生活には慣れていった。支給された衣蓑の中の服は全てサイズを直し、甲板掃除、砲身磨き、朝の体操、砲弾訓練など、どんどんこなしていった。艦内では誰よりも体力があったので、何ら肉体的についていけないことなどなかった。唯一、こまったのが、入浴が週に一回のみということだろうか。だが、水が貴重品の艦ではそれもやも得なく思える。
 本当に、この艦、いや船が戦争に向かっているのだろうか信じられない思いである。それほどまでに艦での生活が自分に合っている感じがした。
 だが、あることで、それが一変する。それは水兵たちを集めての戦術講習の時間での出来事だ。ある部屋に数十人ほどの水兵たちが集まる。教官として黒い制服の士官が黒板と影絵の書かれたボードを使い、これからの戦闘に関しての詳しい解説をするのである。
「すでに我々は戦闘態勢に入っておる。これまでも、この戦闘がどんなものになるかは解説してきたが、間近に迫った今、改めて説明をし直そうと思う。まずはこれが何だか分かるな」
 ボードを持ち上げた。白い背景に黒い影絵が、船の形のようだ。
「くにゃー、スワロ」
と数人が言うと、
「クニャージ・スワロフだ。ロスケの名前は覚えにくいのう。国親父、座ろう、と覚えておくものだ。要は、しっかりと見分ければいい。バルチック艦隊の旗艦だ。この艦の中にあのロジェストウェンスキー中将が乗っておる。これをたたいて沈めれば勝利はこっちのものだ」
 たたいて沈める、この言葉に源太はびくっとした。
「我が軍は、バルチック艦隊二十隻以上と対峙しなければならない。敵は、はるばるロシアから一万八千海里を渡ってくる。かなり疲れてやってこようが侮ってはならない。ましては我々は奴らがどこを通って、ウラジオストックに向かおうとしているかさえ掴めてない。対馬海峡で待機しておるが、必ずしも対馬海峡であるとは限らん。太平洋を北上して、津軽海峡を通っていくのかもしれん。もしそんなことになったら、せっかくの準備も台無しとなる。場合によっては、これから太平洋に進路を変えなければならなくなるかもしれない。そうなると敵に追いつけなくなるかもしれん」
 この説明で、源太は東堂の言っていた「神のお告げ」が分かったような気がした。源太は東堂にバルチック艦隊が確実に日本海を通ってウラジオストックに行くことを伝えた。
「敵と出くわしたら、我々がすることは丁字型戦法だ。敵が進む前を横切るように、真上からみると丁字に見える形が理想だ。我々はその丁の横線となる。敵は縦線だ。敵は前方の主砲でしか我々を攻撃できないものの、我々は右又は左の機関砲全てと船首、船尾の主砲を方向を変え使える。断然、有利な攻撃態勢となる。だが、分かっておるな。敵もそのことは知り尽くしておる。黄海での大戦では、敵もそのことを読んでおり、並列の体制となり我々に膨大な被害を与えた。数多くの仲間を失った。今度は、そうならんためにも、ターンのタイミングが重要となる。なので、その態勢が出来上がるまで、この艦は敵を見ることがあっても攻撃はできん。そして、それまでは我々の側が徹底攻撃を受けることになるじゃろう。我々は先頭をゆく旗艦だ。なので、ひたすら堪え忍ばなければならん。一人一人、命をかけてもだ。いつでも死んでおく覚悟をしておけ」


「敵、敵、敵」繰り返されるその言葉に強烈な拒否感を源太は感じた。敵はロシア、当時は帝政ロシア、味方は大日本帝国か。帝国同志の醜い争いの持ち駒にされている。おまけに「死んでおく覚悟」だと。人の命を何だと思っている。
 戦争をしなければ誰も死ななくて済む。今からでも、この海から引き返せばいいのではないか。なぜ、ロシアと戦う。ロシアといえば、イギリス留学時代、ロシアからのテニス選手と数多く交流した。皆、親切で明るくいい奴らばっかりだった。ソ連、ロシアというと日本ではいいイメージがなかったが、実際のロシア人は実に親日的で、空手やスシなどの日本文化に詳しいのに驚いたほどだ。それは二十一世紀の話だけど、いつの時代だって、人間は皆、誰もが戦争をのぞまないいい人間なのに国家が勝手に戦争を始め、憎しみを創り出し、無益な戦争を繰り広げている。
 源太は、そのことに常に憤慨していた。軍隊などあってはならない。この戦争には勝つが、その後、大日本帝国が始める戦争は無茶苦茶なものだ。結果、国内外に多大な犠牲者を出し最後に降伏。その結果が平和憲法なのだ。自分は、そんな時代に生まれた。どうも相容れない。
 その日は、戦術会議が終わった後は、消灯、就寝であった。翌朝、目が覚めた時、源太は決心した。ハンモックから離れない。自分はボイコットする。自分は戦闘に参加しない。武器を取らない。一切の戦闘に関する行動を拒否する。どんな懲罰を受けても、それに参加しない。
 それを多神に伝え、ハンモックの中でじっとすることにした。それを聞いた多神は、訳が分からぬ表情となったが、突然、ハンモックから源太を引きずり降ろした。
「上官の権限をふるって僕を言いなりにさせるつもりですか、そうはいきませんよ。どんなに殴られようと、どんな懲罰を受けようと、戦闘に関わる行為に参加しません。僕は平和主義者です」
と源太は床に座り込んだ。頑としても、動かないつもりだ。軍隊で、こんなことをすれば反逆罪にでも問われそうだが、そもそも、軍隊などにはいるつもりなどなかった。それが神の悪戯で、こんな目に。
 多神は呆れた表情となった。他の水兵たちが持ち場に着き、がらんとなった水兵の詰め所。
「勝手にしろ」
と多神は言い捨ていなくなった。源太はハンモックに戻り、ずっと吊されて横になった状態のままでいた。
 それから数時間後、詰め所に多神が戻ってきた。
「長官が話したいそうだ」
と多神。
「長官が?」
「そうだ、長官命令だ。行け」
と多神が言う。源太は長官となら話をしてみるべきだと思った。東堂長官に自分の想いを伝えたいと。自分が、これ以上、戦闘に関与したくないこと、できればこの艦を港に戻し戦争をしないで欲しいと。長官にとってはばかげたことに聞こえるかもしれないが、言うべきことは言ってやりたい。それこそが、未来からやってきた自分の使命ではないかと。
 ハンモックから降り、詰め所を出て長官室へ行った。そこに東堂平七郎がいた。互いに睨みをきらしながら見つめる。それがしばらく続いた。
 源太は口をつぐんだ。長官から何か言うまで、自分は何も言いたくない。
「おはん、自分を平和主義者だと言っとるようだが」
と東堂が言った。源太はそれに対し、
「そうです。だから、僕は一切の戦闘に関する行為、訓練を含め、このようなことを拒否するのです」
と憮然として答えた。すると、東堂は言う。
「おはんは平和主義者ではなか。おまえは平和主義者ではない」
 源太は、その言葉にぎょっとした。ものすごく力強い口調で言ったのだ。

第10章につづく
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テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

三笠 | 20:47:15 | Trackback(0) | Comments(0)
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