■プロフィール

海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

■最近の記事
■最近のコメント

■最近のトラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリー
■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
KIMONOを着よう! 第1章 サヨク弁護士
日本の民族衣装、着物を通して学ぶ、伝統と文化の重さ。軽小説スタイルで。

園田一郎は、東京に住む三十三歳の弁護士だ。そもそも弁護士になったのは、大学の法学部に在学中に受けた司法試験で合格してしまったからだ。普通、卒業後、数年ぐらい浪人しなければ合格できない司法試験を一発で在学中に合格してしまった。一郎が合格をした後、法曹界の資格は法科大学院制度に変わったので、当初、弁護士になるつもりもなかった本人は、たまたま挑戦のつもりで合格して資格がゲットできたのだから、弁護士にならなければ損だと思い、司法研修生となり、そして、立派な資格を持つ弁護士となった。

その後、就職先としてある弁護士事務所に勤めることとなった。あくまで新米見習いのつもりでだ。そこは、小さくて古臭い建物の中にあった。当初は腰掛けのつもりで、どこでもいいから見習いとしての修業を積めるところをと思い就職したのだが、その後、なぜか務め続けることになった。

そこは、法曹界の人々からは「左翼の溜まり場」と時に揶揄されている事務所だ。というのは、この事務所の専門は、社会的弱者の味方をする立場の人々の弁護をすること。人権派だともいわれている。また、必ずしも弱者ではないが、環境保護、表現の自由などを主張するリベラルで進歩派の人々の依頼を受けることもある。

司法研修所の同期の弁護士などは「なぜお前のような優秀な奴が、そんなところにいるんだ?」と言ってくることがある。

というのは事務所のある古臭い建物に象徴されるように儲かる仕事ではない。弁護士で報酬が高いのは決まって、大企業などの強者の味方をする場合だ。環境問題で保護を訴える周辺住民や自然保護団体よりも、環境破壊に加担する企業の顧問弁護士の方がはるかに待遇も報酬も高い。そんな弁護士たちが運営する事務所からリクルートを受けたことが何度もあったが、なぜか断ってきた。

一郎は、自分は人権派でも左翼でもないつもりだが、この事務所にいることになんとなく居心地の良さを感じていた。それは自分でもなぜか分からない感覚である。

そして、季節が秋口に入ったある日、担当した公判が終了した後、晴れ晴れとした気分となり、東京地方裁判所を依頼人と一緒に出た。依頼人は、中央アジア系の中年男性イアンさんだった。警察から覆面強盗事件の容疑者と間違えられ、不当逮捕を受けた人物だった。外国人で滞在ビザが切れていた門で拘留を受け、その後、無理やり強盗団の一味であると認めた内容の供述書にサインをさせられた。

依頼を受け周辺を独自に調査、そのうえ、警察の不当な捜査手法を暴き、裁判では見事に無罪を勝ち取った。

無罪を勝ち取って弁護士冥利に尽きるものだが、依頼人は必ずしもそうではなく、警察の過酷な取り調べと拘留で心に傷を負い、また、無罪となっても不法滞在には変わりない為、数日内に強制送還の手はずとなる。

本人も、日本にはがっかりさせられた、いい思い出が残せないと残念がっていた。日本に対して、そんな悪い印象を持っては困ると一郎は思った。そうだ、裁判所をしばらく歩いたところに皇居がある。ここを見せてやれば気分転換になるかもと思った。昼食を一緒に取った後、一郎は事務所に電話をして特別に時間をつくり皇居を案内することにした。イアンは、皇居にずっと行ってみたかったので、一郎の申し出を喜んだ。

皇居に近づこうとする道すがら、右翼らしき団体の街頭演説を目にした。マイクを握って演説しているのは、最近、メディア上で愛国運動を鼓舞している新進気鋭の右翼リーダー、宮田義男だ。軍服姿に日の丸の鉢巻き、周囲に日の丸の旗と旭日旗を置いている。時々、この周辺で演説を振るっているのを目にする。日本の政治の中枢だからこそ、最高の自己主張の場となっているらしい。大声で雄たけびを上げ何かを訴えている。よく耳を澄まして聴いてもがなり声が凄いだけで、何を言っているのか分からない。まあ、この男に限らず、右翼と称する者共の言っていることは何なんのかよく分からない。この日本を想う気持ちは誰にも負けない、俺たちは愛国者だ、右翼だ、民族主義者だ、ということなのだろうが。

そんな奴らは無視して、皇居に向かうことにした。


イアンさんは日本語は日常会話レベルであるが、英語は母国語ではないものの堪能である。そのため、法廷では英語の通訳を通して証言をしたり、裁判官の指示を聞いた。そして、一郎との相談は英語でした。というのは、一郎は中学生から英語が大の得意で、弁護士の資格だけでなく、英語検定1級の資格も有している。大学時代に半年ほど、カナダに留学をした経験も持つ。そのため、外国人の依頼もしばしば受けるのだ。
tatsumi2
一郎は、皇居をイアンさんのために英語でガイドするつもりでいた。ガイドなんてしたことはないが、皇居に関する知識はそれなりにあるので、ガイドによって皇居を楽しんで心を癒してもらいたいと思った。ちょうど、皇居のお濠、巽櫓の辺りにきたところ。

一郎は、そこで外国人数人を引率して英語でガイドをしている女性を目にした。手には「FREE WALKING TOUR FOR FOREIGNERS」というパネルを持っている。イアンさんが興味深そうに見つめていた。

女性は中年で日本人女性だが、英語はすらすらと喋っている。
「この建物はタツミヤグラと呼ばれ、ここが江戸城防衛のための要塞でした」
赤のワンピースを着てモデルか女優さんかと思えるほど美しくスタイルがいい。歳は一郎より少し年上といった感じだ。そばには小柄の若い日本人女性が立っていた。
「あのう、僕も参加させてもらっていいですか?」とイアンが英語で中年女性に言う。
女性は「もちろん」と大きな笑顔を作り応えた。
「僕もいいかな。日本人だけと連れなんだ」と一郎。
「ええ、御連れでしたら結構ですよ」と彼女は一郎に微笑み言った。
一郎とイアンは外国人のための皇居ツアーに参加することになった。これはボランティア・ツアーなので無料だとのこと。外国人の旅行者や滞在者のために月に数回、ネットで募集をかけ都内の名所を英語で案内をしているものだそうだ。ガイドはあくまで資格のないボランティアの日本人で、英語力を活かし、外国人に東京の魅力を知ってもらうために活動をするというのが主旨だそうだ。

通常、土日、祝日にするのだが、たまたま応募した人たちが平日のこの日を希望したので急きょツアーを実施。たまたま仕事も休め都合がついたため、彼女が引率をすることになった。名前は清美という。普段は通訳の仕事をしているそうだ。もう一人の若い女性はボランティアガイドになることを希望して見習いとして参加。名前は真美。会社が近くの丸の内にあるそうで、そこでOLをやっているのだが、その日の午後、せっかくの機会だからと有給を取り、ガイド研修として参加することにしたのだと。

中央アジア出身のイアンが浅黒い肌をしているのとは対照的にその他数人の外国人はイギリスから来た家族とその友人の団体であった。だが、互いに英語で仲良く交流しはじめた。イアンの表情はどんどん明るくなっていった。

一行は皇居は東御苑の入口、大手門へと向かった。かつての江戸城の表玄関だ。

第2章へつづく
スポンサーサイト
和装 | 19:17:12 | Trackback(0) | Comments(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。