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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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「ヨーソロ、三笠」 第10章 現実主義者
平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第9章までお読み下さい。

「なぜ、平和主義者でないと言い切れるのです」と言い返した。自分は、誰よりも、少なくともこの艦にいる者たちのなかでもっとも平和主義な人間であると源太は思っている。
「武器を持たずして、平和が守れると思っておるのか?」
「武器があるからこそ争いが絶えないのだ。そもそも、戦争など愚かなことだ。こんな戦艦を出しに行くほどの争い事をどうしてしてしまったんだ?」
と源太は東堂を責め立てるように言った。
「おはんは、この戦争のことを知っておるのじゃろう。渡した紙にも書いてあっただろう」
「はい、知っています。ロシアと中国大陸で争ったことでしょう。その紙以外にも、学校で歴史の時間に習いました。今ここでは、真っ最中のことでしょうけど」
「そうじゃ、まさに真っ只中で我々は戦っておる。結果の分かっているおはんの時代と違い、これからどうなるかも分からない手探りの状態に置かれておる」
 手探りの状態、と聞いて、一郎は東堂に訊きたかったことがあった。
「バルチック艦隊が日本海を通るか通らないかを含めてですか?」
「そうじゃ」と東堂。
「僕が、この時代に来て、まるで神の遣いのように、その問いに答えたということになりましたね」
「ふふ、おいどんは、当初から日本海を通ってくると予想しておった。だが、それでも相手が裏をかくということもよくある。あらゆる可能性を頭に入れておかねばならん」
 東堂は、微笑んで答えた。源太は、面白い人だと思ってしまった。
「でも、そうまでしてロシアと戦わなければいけなかったのですか、この戦争ではたくさんの兵士が死にます。今、この艦にいる兵士の中にも、死者がでることは確実です。なのに、どうして、話し合いはできなかったのですか?」
 源太は迫るように言った。
「話し合いという外交は、さんざん尽くした。外交はうまくいく場合もあるが、いかない場合もある。相手が頑として譲らないのならば、最後は武力にして訴えるしかない。最後は力が正義、力が法となる。それが世界だ」
「それが愚かなことだ」
「ほう、ならば、それでものごとは解決するのか? こっちが何もせねば、相手は好き放題にしてくるぞ」
「だけど、人と人が殺し合うなんて許せないことだ」と一郎は怒りを込めて言った。
「これは人と人との争いではなか、国と国との争いごとじゃ」
「でも、戦争では人が殺される。ロシアの人がそんなに憎いのですか?」
「憎む? 憎んでなどおらん。彼らは我々と同じだ」
「同じ?」どういう意味だと思った。


「分かり切っておるが、我々と同じくロシアの兵士も望んで戦っておるのではない。我々と同じく恐れおののき、誰も殺したくもないのに戦場へ向かわされておるのじゃろう。だが、引き返すわけにはいかん。我々に課せられた使命を果たすためにも引き返せないのじゃ」
「使命、使命って、誰かが勝手に作り上げた口実だ。御国のためだなんて、国のために人が死んでいいものか」
と源太は渾身の想いで言った。
「我々が死ぬ覚悟で戦って、より多くの民が救われる。そう考えねばならん。ロシアの方でも同じことを考えておるのじゃろう」
「うそだ、不必要に憎しみを煽り、不必要に戦争を起こしているだけだ」
「その戦争が必要であるか、必要でないかは、この場で議論すべきことではない。我々は命ぜられたことをするまでじゃ」
「戦争そのものが、不必要なものだ」
「人間が生きておる限り、戦争はなくならん。それが現実である。どんなに理想を語ろうとも、我々は付き合っていかねばならん」
と東堂は平然と言う。
「僕が平和主義者でないというのは、そんな現実が分かっていないからと言いたいのですか?」
と源太は思わず返した。
「真の理想主義者は、現実主義者でなければならん。戯言ばかりを言っておっても、結果が伴わなければならん。戦が避けられんのなら、少しでも犠牲を減らし、少しでも早く平和裏に終わらせるというのが、賢い考え方じゃ。戦をせぬ、と考えても戦はなくならず、手をこまねいていれば、もっとひどい犠牲を強いられることもある。今度の戦争とて、大国ロシアを相手にするのは我が国のような小国としてはどうしても避けたかった。だが、そうせざる得ない状況へ追い込まれてしまった」
「人間同士、話し合えば分かるはずなのに」と源太は東堂の淡々とした口調に対して穏やかになって言った。
「未来のおはんの時代では、話し合えて分かり合って、戦争などないのか」
 源太はしばらく考え込んだ。
「いいえ、戦争は起こっています。だけど、話し合い分かり合うことだってしています」
「この時代とは違うのは当然じゃろう。おそらく、様々な戦を経た後だろうから。だがそれでも戦は絶えぬのか。人間とは愚かなものだのう。しかし、そう簡単に皆が賢くはなれん」と東堂。
 図星だ、と源太は思った。源太はどう応えていいのか分からず、気まずい気分になった。東堂は、源太の表情から、それを察した。
「どうじゃ、どうしても、訓練に参加したくないというのであれば、おはん、今からおいどんが頼むことをやってくれやせんか。おはんにしか、できないことじゃ」と東堂。
「はあ」と源太が言うと、東堂は携帯電話を棚の引き出しから取り出した。源太のもので、預かっているものだ。
「これから行う総員による砲戦訓練を、これで映して欲しい。このまえ、おいどんにしたように動く写真として撮って欲しい。できるな?」
 源太は思った。そういうことなら引き受けてもいいだろう。

第11章に続く
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テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

三笠 | 15:17:25 | Trackback(0) | Comments(0)
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