■プロフィール

海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

■最近の記事
■最近のコメント

■最近のトラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリー
■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
「ヨーソロ、三笠」 第13章 覚悟の乗艦
平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第12章までお読み下さい。


 艦上での朝礼の時、砲員長である多神は源太が整列の中にいたのを発見して驚いた。同時に、艦橋から水兵の列を眺めていた東堂長官も驚きを隠せなかった。
 朝礼が終わると、多神が話しかけようとしたが、士官の男が源太に近付き、長官室に行くように命じた。源太は、多神に一礼して長官室へと向かった。
 長官室で東堂は、やや怒りの表情をして、
「おはんはいったいどげんつもりでおんのか。本物の戦闘となったら、おはんなど耐えきれんぞ」
と怒鳴って言った。
「長官、陸に戻っても意味がないと思ったのです。お分かりのように、この時代には僕は何のつてもありません。長官のお知り合いの方が世話をしてくれるのでしょうけど、どうせこの時代で自分がまともに生き続けられるとは思えません。これでも二十世紀の歴史については知っています。それに僕はこの艦にいながらこの時代に来てしまいました。そして、それにそれなりの意味があるのだと思うのです。逆を返せば、元の時代に帰りたいとしたらこの艦にいなければならないと。この艦にいて一縷の望みに賭けたいのです。もしかしたらそれが神様から課せられた使命かもしれません」
 源太は緊張しながらも、自分の決意を語った。軍隊的にいえば少し身勝手な行動を取ったのかも知れない。だが、自分は特殊な立場である。
 源太の言葉を聞いて東堂の表情が緩んだ。
「ほう、おはんのいうことはもっともなように聞こえる。確かにじゃ、おはんが陸に戻っても、この時代を生き続けるのは大変じゃろ。しかし、覚悟は出来るおるのじゃな。おはんも知っておるじゃろうが、この艦にもかなりの砲弾が飛んでくる。一つ間違えば、死ぬことになる。それにこの艦にいる限り、戦闘員として訓練で習ったように敵艦に砲弾を撃ち込まなければならん。戦争は嫌だと言っとっただろう。おはんには、その覚悟ができておるか?」
「この艦に居続ける限り、どんな命令にでも従います。規律を乱すことをするつもりはありませんし死ぬことも承知済みです。お願いですからいさせてください。どんなことでもしますので」
 源太は深く頭を下げて言った。
「よかろう。ただし、この艦の軍楽隊員に課しているように負傷兵の手当や運搬、甲板の整備や消火活動を主にしてもらう。ただ分かっておるように、いざ砲員が足りなくなった時は、交代要員として砲撃をしなければならんぞ」
「はい」と源太。
「それから、これはずっとおはんが持っていなさい」と東堂は言い源太の携帯電話を差し出した。電源を切った状態だ。
「おはんはこれを使っている時に、この艦で時空を超えたのだから、これが必要になる時が来るかもしれん」
と言いながら源太に手渡した。
「ありがとうございます」
「ところでだが、この際、聞いておきたいことがある。おはんの話を聞いて思ったのだが、この戦争が終わった後に、いったい日本で何が起こった。第二次世界大戦とか言っておったな。もしかしてそれがおはんの、その平和主義といかいうのと関連があるのではないか」
 東堂のぎょろ目をした表情を見て源太は、思い切って話すことにした。話してはいけないことかもしれないが。
「この戦争の後、二つの世界大戦があり、日本はどちらにも宣戦します。一つ目はヨーロッパでの戦争に協力する形で、中国大陸でします。日本は勝った側について戦争が終わります。問題はその後です。貴方がお亡くなりになる後の話ですが、日本は中国大陸で戦争を始め、そして、ヨーロッパ諸国で起こった大戦に関わる形で世界大戦に加わります。そして、この戦争では日本は大敗するのです。多くの犠牲者を国の内外で出してしまい、それにより日本は二度と戦争をしない国となる道を歩むことになるのです」
 源太は淡々と語った。東堂は無表情に聞いていたが、しばらく沈黙の間をおいた後、
「なるほど、おはんがあんなことを言っていたのも頷ける。負けたからこそ、そんな考え方になるのじゃろう。おはんの国では、軍隊はどうなったのじゃ」
「軍隊は新しい憲法によって廃止され、代わりに自衛隊という名の自衛を目的とした軍隊を持つことになります。ただ、それは軍隊ではないので、武器は持っても戦闘はしないことになっております」
「何? 武器があるのに戦闘はしてはならぬというのか。それはおかしな話だな」
「二度と間違った戦争を起こさないためにも、軍隊としての活動は制限しようという考え方です」
「ほう、実に奇妙じゃが、それは戦争に負けると勝った国が課してくる要求じゃな。この艦は記念艦になっているということじゃが、おはんはいったいどうしてこの艦に来たのじゃ。戦争は嫌だと言っとたではないか」
「単なる偶然です。道に迷って辿り着いたのです。本当は別のところに行くはずでした」
「別のところ?」


CVN73_small.jpg

「ええ、横須賀の基地に外国軍の大きな戦艦が配備されるので、その反対運動のためです。僕たちの時代では空母と呼ばれているもので、確かこの時代では発明されていない戦闘機、爆弾を摘んだ空飛ぶ乗り物を運ぶ戦艦です。とても大きいものです。それにとても危険なものなのです」
 源太は敢えて「外国軍」という言葉を使った。
「外国軍の戦艦が配備される? 爆弾を積んだ空飛ぶ乗り物? それが二十一世紀の横須賀か。しかし、外国軍の戦艦が横須賀の海軍基地になして配備か」
「さっきも言ったでしょう。日本は戦争に負けたんです。そして軍隊を廃止させられました。元基地のあったところには外国軍が置かれるようになります。当初は負かした日本の占領のためでしたが、後に日本を守るためという理由で居続けることになりました」
「ほう、その外国軍とやらだが、それはロシアか?」
「いえ、違います。とても面白いことなのですが、それは今、この戦争で日本を支援している国です。この戦争を日本の勝利で集結させる外交交渉の手助けをする国です」
 源太は回りくどい表現でものを言うのが丁度いいと思った。未来からの預言をストレートにいうのは気分のいいものではない。そもそも、過去の人間にそんなことをしたくなかったからだ。
「なるほど、まあ、それが国家同士の付き合いというものじゃの。それが人類の歴史じゃ。今日の友が、後にいつでも敵となる」
と東堂。
「でも、戦争は愚かなことだと思います。避けるべきことです。これから、この艦の兵士たちが死ぬのです。規模が大きくなれば、何の関係もない一般の人々も命を落とします。未来では兵器の威力が格段に増し、計り知れないほど多くの人々が犠牲になります」
と源太。どうしても、そのことを言っておきたい。
「愚かなことをするのが我々人類じゃ。それならば、少しでもそれによる犠牲を少なくし、少しでも早く愚かな争いを終わらせなければならん。外交で解決しようとしてもうまくはいかないこともあるし、また外交をするためにも、軍隊を持っている必要がある。いざとなったら本気で戦える準備をしていることを見せないといけない。いわば戦争は外交の最終手段じゃ。戦争は愚かだと非難し憎むのは勝手だが、手をこまねいていても、結局、戦争に巻き込まれることになる。人類が続く限り争いごとは絶えん。それをどこまでうまく付き合っていくかが重要なことじゃ。平和を語るならば、戦争のこともよく知り、備えなければならん。それをせんと、真の平和は勝ちとれん」
 東堂は頑として言い放った。東堂と同じことを言う人々は源太の時代にも多くいる。これまで、それを詭弁だ、ごまかしだと思い、真剣に取り合わなかったが、それがこの艦の上にいると恐ろしく説得力を得るのはどうしてかと思った。時代の違いなのか。
 源太が長官室を出た後、多神が長官室に呼ばれ、源太を軍楽隊と同様に、負傷兵の手当や艦内の伝令、甲板の整備や配食など補助的な任務を命ずることととした。
 源太は気を引き締め、他の水兵たちと共に戦闘態勢に加わることにした。この艦にいないと自分は元の世界に戻ることができないのではないかという焦りがあった。自分にはそれしか選択肢がないのではないかと。そして、なぜかそれが自分の責務のように思えた。
 甲板における命令の伝令、負傷兵の手当、担架での運搬、甲板に破片が飛び散った場合などの整備、火災の消火、機器類の修繕などが主な仕事となり、訓練もそれが主となったが、砲員の交代要員としての砲撃訓練にも参加した。
 何も考えず無心となって望んだ。この際、自らの平和主義などは考えないようにした。
 黙々とそんな日々を過ごしている内に、とうとう、五月二十七日が来た。
 早朝、ラッパが鳴った。バルチック艦隊が哨戒艦により対馬沖で発見されたとのこと。海上でばらばらになっていた連合艦隊の艦船に集結の命が下されたとのことだ。
 三笠の艦内の緊張は一気に頂点に達した。ラッパと軍楽隊の演奏と共に戦闘準備が始まった。
 戦地へ向け前進、ヨーソロ、三笠だ。

第14章へつづく
スポンサーサイト

テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

三笠 | 20:16:53 | Trackback(0) | Comments(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。