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海形将志

Author:海形将志
40代、独身、東京在住。仕事は翻訳業。米留学経験有り。

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日本昔話的小説: 雪のように白い肌の女 第4章 ニューヨークへ
雪山で出会った雪女のような女と約束したこととは。

まずは第1章から第3章をお読みください。

玄関口には、身につけていたレンタルのスキー板、ブーツ、ストックが二人分置かれていた。民宿の中は静かだった。他の客は出払っている。
「すみませーん」と亮は声を上げた。しばらしくして、民宿の旦那が現れた。
「やあ、もうお帰り、お昼にもなっていないのに」と。今日はチェックアウトの日である。ただ、スキーは夕方までして、民宿にスキー用具を返して、帰途に着く予定だった。荷物は今朝、民宿のフロントに預けた。
「はあ、まあ。ただ、ちょっと訊きたいのですが。僕たちをここに連れてきた人たちがどんな人達だったか分かります?」
という亮の質問に旦那は「はあ」という反応だった。つまり、何も見ていないということが分かる。
「いえ、どうでもいいんです。これからチェックアウトします。スキー用具は玄関口に置いていますから」と亮は言って、チェックアウトの手続きをして、二人は荷物を取り、駅に向かうことにした。

 伊代は駅に向かうバスの中で亮に言った。
「私、雪崩が来てから後どうなったか、全然覚えていない。あなたもそうなんでしょう。でも、誰かが私たち二人を運んで連れてきたはずよ」
「ああ、そのはずだな。僕たちに何も言わず、きっと雪崩で意識を失った後に助け出されて、そのまま運びだされたのだろう。スキー板に民宿の名前が書いてある。それで、そこの客だと思い、運んでいってくれたのだろう」
「レスキュー隊の人かしら? だとしたら、普通、病院に連れて行くわ」
「そうだな、実に不気味だ。親切でしたのか、何か特別な理由があってしたのか」
と言い亮は考えあぐねた。特に財布などが盗られた訳でもない。何事もなかったかのように、ことが済んでしまっている。
 亮は、雪女のことを考えた。あれは夢だったのか。もし夢でないとしたら、自分たちを救い、民宿まで運んでいったのは雪女ということになる。そんなバカな。雪女など存在するのか。お伽話でしかないものの存在を真面目に信じろというのか。だが、あの雪女が言った通り、自分は助かっている。伊代もだ。
 亮は考えあぐねた。
 そして、バスが信濃大町駅に着いた時、一つの決心をした。
 バスを降りた。駅に入った。十分後に急行が発車すると時刻表示が出ている。その後には各駅の電車が来る予定だ。
 亮は伊代の顔を見つめ言った。
「伊代、大事な話がある。僕は急行列車には乗らない。君だけが乗ってくれ」
「え、どうして、何か予定があるの」
「いや、そうじゃないんだ。僕たちはここでお別れだ」
「お別れ、どういうこと? 東京まで一緒の電車に乗ってもいいでしょう」
「そういう意味じゃない。今後、会わないようにしようという意味だ。つまり、付き合いをやめようと言っているんだ」

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軽小説 | 15:51:13 | Trackback(0) | Comments(0)
日本昔話的小説: 雪のように白い肌の女 第3章 コース外滑走
雪山で出会った雪女のような女と約束したこととは。

まずは第1章第2章をお読みください。

 翌朝は予報通り、快晴であった。朝から鹿島槍ヶ岳がゲレンデから眺められた。
「まあ、なんてきれいなの。寒いけど、これを見るとわざわざ来てよかったと思えるわ」
二人は、鹿島槍ヶ岳がじっくり眺められるコースを滑りまくった。
 リフトを乗り降りして何度か同じコースを滑る。何度見ても同じ景色だが、飽きることはない。だが、亮は、これでは飽き足らない気分となった。というのは、通常のコースを外れて滑るコースに行きたかった。通常のコースでは二人きりになれない。雪もふんわりとしているのだ。昨晩から早朝にかけて雪が降ったらしくパウダー状態になっていることは間違いない。
 規定のコース外なので、スキーヤーはこっそりと滑り降りていく。スキーパトロールに見つかったりしたら、リフト券を取り上げられる。また、雪崩などの遭難事故にあって救出された場合、その救助費用は全額自己負担とされてしまう。
 だけど、そこに行きたかった。伊代を連れて行きたかった。ふわふわパウダーの雪の上で、鹿島槍が岳を眺めながらプロポーズ、絶好のシチュエーションだ。
「ねえ、伊代、これからこのスキー場で最高のコースがあるんだけど、来て欲しいんだ」と亮が言う。伊代はついていく。すると辿り着いた場所には、境界線を示すように杭が打たれ、その杭と杭の間にはロープが張られて、そのロープには赤い札が垂れ下がっている。
「ここに入ってはいけないということでしょう」と伊代。心配そうな表情で言う。
「でも、滑るには最高のコースなんだ。整地されていないから、ふわふわの軽い雪の上で存分に滑られる。僕は何度も滑ったことがあるよ。二人だけで誰も他にはいない僕たちだけで滑られる場所なんだ」と亮はにっこりと軽い調子で言う。
「いいわ」と伊代。安心した表情になった。
 二人はロープをくぐり、さっと滑り降りていった。思った通り、ふわふわのパウダースノーだ。まだ誰も踏み込んでいないらしい。二人だけで独占できるゲレンデだ。
「うわあ、最高。全然違うわ」と伊代は大喜びだ。整地されたコースに比べはるかに滑りやすい。滑っていて気持ちがいい。
 だが、二人は、さっとある場所で止まった。真正面に鹿島槍が岳が眺められる場所だ。
鹿島槍

 ゲレンデより近い位置なので迫力は満点である。二人だけでひっそりとした雪の斜面にいる。美しい山。パウダースノーを滑った快感。これは亮が最も願っていたシチュエーションだ。
「どこから見ても綺麗ね、この山」と伊代。感動しながら眺めている。
「ああ、見ての通り、二つの峰で出来ている。高い方の南峰は標高2,889 mで北峰は標高2,842 m。日本百名山の一つさ」
「日本百名山っって?」と伊代。
「あれ、ジャーナリストのくせに知らないのか。北から順に言うと、利尻岳、羅臼岳、斜里岳、阿寒岳、大雪山、トムラウシ山、十勝岳、幌尻岳、後方羊蹄山、岩木山、八甲田山 、八幡平、岩手山、早池峰山、鳥海山、月山、朝日連峰、蔵王山、飯豊連峰、吾妻山 、安達太良山、磐梯山、会津駒ケ岳、那須岳、筑波山、燧ケ岳、至仏山、武尊山、赤城山 、男体山、日光白根山、皇海山、越後駒ケ岳、平ヶ岳、巻機山、苗場山、雨飾山、妙高山、、高妻山、草津白根山、四阿山、浅間山、両神山、甲武信岳、金峰山、瑞牆山、雲取山 奥秩父、大菩薩嶺、丹沢、富士山、天城山、白馬岳、でもってこの鹿島槍ヶ岳、それより南は・・」
「もういいわ。記憶力がいいのは分かっているって」と笑いながら伊代が制止。
「はは、ちょっとした趣味で知ったことさ」
「何度もここに来たことがあるのね」
「ああ、毎年来ている。そして、今年は君を連れてきた。ここまで連れてきたのは君にどうしても話しておきたいことがあってなんだ」と亮。伊代は亮の真剣な眼差しに、答えるように真剣な表情になった。伊代にも分かっていた。亮が何を言おうとしているか。それは伊代もずっと待っていたことでもあった。
 と、その時、バーンという音が鳴った。何の音かと思った。まるで大砲がなったような音だ。何かと思い音の聞こえた方向に二人は顔を向けた。すると、目にしたのは大量の雪がどっと押し寄せてくる光景だ。
 まずいっと思った。亮は伊代に「行くぞ」と大声で言った。二人は滑り出す。だが、雪崩の勢いは凄まじい。何とか追いつくまでに、ゲレンデの方に降りていけないか。このまま降りていけば、途中で緩やかなカーブになり、そこを曲がればゲレンデに辿り着く。雪崩もカーブの辺りで落ち着くはずだ。
 何とか、伊代の降りるスピードに合わせながら、降りていく。だが、背中のすぐそばまでに雪崩が近付く。と、その瞬間、亮は背後から衝撃を感じとった。首の辺りにすっと感じるものが、雪なのか、それとも、何か激しいものが。背中からなので分からないが、亮はそのまま体が動かなくなり、意識を失った。



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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

軽小説 | 18:04:14 | Trackback(0) | Comments(0)
KIMONOを着よう! 第4章 芸者とはアーチスト
日本の民族衣装、着物を通して学ぶ、伝統と文化の重さ。

まずは第1章から第3章をお読み下さい。

季節は冬へと移り変わった。浅草を案内してくれないかというガイドの要望が来た。一郎は、長襦袢、長着、羽織を身につけ、足袋を履き、それに合う草履を履き、しっかりとした着物姿になった。だが、それだけだと肌寒い。襟や裾から空気が入ってくるので、洋服と違い密閉性が低いのだ。昔の人は、着物で冬を過ごしたかと思うと、辛抱強かったのではないかと思えるほどだ。

清美さんと真美さんも来る予定になっている。浅草の雷門前で午後1時に待ち合わせることに。天気は冬晴れ。
asakusa2.jpg


彼女たちは先に来ていた。驚いたのは、二人とも着物姿なのである。真美さんの着物姿に驚いた。何とかわいらしい。赤をベースにした花柄で、髪の毛も結いあげかんざしをつけている。帯も、花柄の文様で、赤い紐の草履。まるで日本人形だ。今まで見たのとは、全く違う印象を受ける。対称的に清美さんは、緑色の地をベースに、ところどころに文様があるデザイン、派手さを控えた分、上品でシックに決めた着物姿だ。中年女性らしい魅力を醸し出している。両者は対象をなす女の魅力を醸し出している。

一郎は二人の着物美人に挟まれる形で、雷門の前でゲストを待ち合わせることに。まさに両手に花。通りすがりの人々の注目の的となった。浅草寺を背景に、着物を着た男女の姿は実に絵になる。写真を撮る人までいた。

しばらくしてゲストらしい人々が。何でも、事前のメールでのやり取りだとオーストラリアから来た人々で、申し込んだのは日本の大学に留学のため2年前から東京に住んでいるニコールという女子学生。彼女の友人がスキーのため日本に来たので、スキーリゾートに行く途中、東京に立ち寄り観光を楽しもうということになったのだ。

ニコールは金髪で眼鏡をかけた真面目そうな感じがする女の子。同じ年ぐらいの男女5人を連れてきた。
「こんにちは」とニコールが上手な日本語で話しかける。
「こんにちは」と清美が日本語で返す。真美も一郎も挨拶した。他のゲストも、にこにこしながら挨拶をする。一人、背が高くすました顔をした女性だけそっけない挨拶をする。名はジョアンナという。
「私たち、とってもエキサイトしているの。それにこんなきれいな着物のガイドさんたちに連れて行ってもらえるなんてラッキーだわ」
ニコールがそう言い、ジョアンナ以外は実に楽しそうだ。
さっそく、雷門から解説。浅草寺の歴史を簡単に解説。門にぶら下がっている大提灯が重さ700キロあること、台風が来る時は畳むことなどを話す。

次に門をくぐり仲見世を渡る。相変わらず人でごったがえしている。清美さんがゲストの男性と一緒に話しこんでいた。一郎と真美は少し離れて、一行を先導するように歩いた。真美が歩きながら一郎に話しかけた。
「この着物、清美さんから貸してもらったの。清美さんが若いころに着ていたものだって。着付けも教えてもらった」
「似合っていますよ。とてもきれいですよ」
「そう、嬉しいわ。でも、生まれて初めての体験。驚くわね。動きにくいのもそうだけど、しっかり締めつけられて、背筋がピンとならないといけないから、猫背ができないの。姿勢がよくなりそう」
とにこにこと話す。初体験をとても喜んでいるようだ。
 一郎は、そのそばでオーストラリアの女性二人が英語でするおしゃべりにも耳を傾けた。ニコールとジョアンナだ。ジョアンナが不機嫌そうな口調でニコールに対して言う。
「分かっているわよね。私はスキーのために日本に来たの。明日はニセコに飛ぶのだから、あそこでオーストラリア人だけの施設でスキーバケーションをするの。日本なんて興味ないわ。クジラを殺す残酷な人々の国よ。あなたのように大学に留学してまで日本に親しもうなんて気がしれないわ」
「ジョアンナ、それでも、せっかく来たのだから、その嫌いな日本を知っておく必要もあるのじゃない。スキーだけではない日本を楽しむべきよ。高いお金を出して、長いフライトで来たのだし」
とニコール。
ニコールの言うとおりだと思った。高いお金を出して長いフライトに耐えてわざわざ日本にまで来てくれた外国の人をおもてなしするのが一郎をはじめとするガイドの使命だ。そのためにも着物を着ている。彼らに異国情緒を楽しんでもらうためだ。

宝藏門、本堂へと案内する。そして、五重塔。五重の塔と共に、世界一の高さを誇るタワー、スカイツリーも眺められるので紹介。新旧時代の塔比較ということで実に面白い眺めである。ゲストは大感動だ。ジョアンナを除いて。

asakusa1.jpg

さて、次に浅草寺の近くにある外国人向けの文化紹介施設「日本文化センター」に一行を連れていくにした。

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和装 | 20:55:33 | Trackback(0) | Comments(0)
「ヨーソロ 三笠」 最終章 坊主頭
平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第14章までお読み下さい。

 源太は、はっと目を覚ました。携帯電話を片手に自分が今、目にしているのは楽隊の演奏だ。艦尾の甲板上である。そして、艦が止まっている状態、いや固定している状態であることに気付いた。そして、それは源太にとっては三ヶ月以上も前に目にした光景だったことも。
 そうだ、今は二〇〇八年五月末日の横須賀の三笠公園にいる。源太は携帯電話をポケットにしまった。手で頭を触った。髪の毛がふさふさに生えている。三ヶ月間、ずっと坊主頭だったのがふさふさで長く伸ばした状態に戻っている。着ている制服には血などは全くついていない。
 源太は、ずっと夢を見ていて、それから覚めた状態であるのに気付いた。だけど、それは立ったままで、ほんの数秒のことだ。たった数秒のことが三ヶ月以上に感じられた。不思議な感覚だ。あれは時空の旅だったのか。だけど、夢だとしても、とてもリアルな夢を見た気分だ。
 楽隊の演奏が終わり、日本海海戦記念式典は終了。一同解散となった。源太は自分の荷物を取りに甲板下の着替えをした部屋に行った。制服を脱ぎ、元着ていた服に着替えるが、パンツ一丁になった時、源太はあるものが気になった。テーブルに置かれたかつての水兵が着用していたという白い褌だ。なぜか今着ているパンツの着心地がいいものとは思えない。これの方が着心地がよさそうだ。せっかくだから着替えようと思い、パンツを脱ぎ、白褌の下着に着替えた。パンツはバッグの中へ。
褌

 ああ、この感触だ。体が覚えている。どういうことだ、まさに着なれた下着という感覚だ。
 源太は記念艦を降り公園に出た。自衛隊員勧誘のテントに向かった。多神に会うためだ。制服と水兵の帽子を返さなければならない。だが、テントに田上はいなかった。その場にいた勧誘の隊員に「多神さんはどこに?」と訊くと、
「ああ、多神さんは急に用事があって基地の方に行ってしまいましたけど」という答えが返ってきた。仕方ないので、制服と水兵帽はその隊員に渡し、源太は原子力空母配備反対運動の活動事務所へ向かうことにした。その前に、携帯で電話を入れようと思った。源太は携帯電話の電源を入れた。そして、電話をした。出た相手は、平和団体の女性だ。名前は玲奈という。彼女は、源太の彼女、友達以上に親しい関係の女性である。画家というアーチストで世界中を回って平和運動をしている活動家で、大学時代から知り合い、そんな深い関係になった。
「玲奈さん、源太だよ。これから事務所に向かおうと思っているんだけど」
「いや、もう直接、会場のヴェルニー公園に向かって。すでにみんなも向かって準備をしているから」
と玲奈の返事。
「そう、分かった。向かうよ」と源太。と、突然、通話が切れた。携帯電話の電源が切れたのだ。あれ、と源太は思った。今朝、フルに充電した状態で持って行ったはずなのに。フルに充電すれば丸二、三日はもつのだが、どうしたのだ。まあ、大したことではないと思い、源太はヴェルニー公園へと向かった。
 

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三笠 | 22:18:07 | Trackback(0) | Comments(0)
「ヨーソロ、三笠」 第13章 覚悟の乗艦
平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第12章までお読み下さい。


 艦上での朝礼の時、砲員長である多神は源太が整列の中にいたのを発見して驚いた。同時に、艦橋から水兵の列を眺めていた東堂長官も驚きを隠せなかった。
 朝礼が終わると、多神が話しかけようとしたが、士官の男が源太に近付き、長官室に行くように命じた。源太は、多神に一礼して長官室へと向かった。
 長官室で東堂は、やや怒りの表情をして、
「おはんはいったいどげんつもりでおんのか。本物の戦闘となったら、おはんなど耐えきれんぞ」
と怒鳴って言った。
「長官、陸に戻っても意味がないと思ったのです。お分かりのように、この時代には僕は何のつてもありません。長官のお知り合いの方が世話をしてくれるのでしょうけど、どうせこの時代で自分がまともに生き続けられるとは思えません。これでも二十世紀の歴史については知っています。それに僕はこの艦にいながらこの時代に来てしまいました。そして、それにそれなりの意味があるのだと思うのです。逆を返せば、元の時代に帰りたいとしたらこの艦にいなければならないと。この艦にいて一縷の望みに賭けたいのです。もしかしたらそれが神様から課せられた使命かもしれません」
 源太は緊張しながらも、自分の決意を語った。軍隊的にいえば少し身勝手な行動を取ったのかも知れない。だが、自分は特殊な立場である。
 源太の言葉を聞いて東堂の表情が緩んだ。
「ほう、おはんのいうことはもっともなように聞こえる。確かにじゃ、おはんが陸に戻っても、この時代を生き続けるのは大変じゃろ。しかし、覚悟は出来るおるのじゃな。おはんも知っておるじゃろうが、この艦にもかなりの砲弾が飛んでくる。一つ間違えば、死ぬことになる。それにこの艦にいる限り、戦闘員として訓練で習ったように敵艦に砲弾を撃ち込まなければならん。戦争は嫌だと言っとっただろう。おはんには、その覚悟ができておるか?」
「この艦に居続ける限り、どんな命令にでも従います。規律を乱すことをするつもりはありませんし死ぬことも承知済みです。お願いですからいさせてください。どんなことでもしますので」
 源太は深く頭を下げて言った。
「よかろう。ただし、この艦の軍楽隊員に課しているように負傷兵の手当や運搬、甲板の整備や消火活動を主にしてもらう。ただ分かっておるように、いざ砲員が足りなくなった時は、交代要員として砲撃をしなければならんぞ」
「はい」と源太。
「それから、これはずっとおはんが持っていなさい」と東堂は言い源太の携帯電話を差し出した。電源を切った状態だ。
「おはんはこれを使っている時に、この艦で時空を超えたのだから、これが必要になる時が来るかもしれん」
と言いながら源太に手渡した。
「ありがとうございます」
「ところでだが、この際、聞いておきたいことがある。おはんの話を聞いて思ったのだが、この戦争が終わった後に、いったい日本で何が起こった。第二次世界大戦とか言っておったな。もしかしてそれがおはんの、その平和主義といかいうのと関連があるのではないか」
 東堂のぎょろ目をした表情を見て源太は、思い切って話すことにした。話してはいけないことかもしれないが。
「この戦争の後、二つの世界大戦があり、日本はどちらにも宣戦します。一つ目はヨーロッパでの戦争に協力する形で、中国大陸でします。日本は勝った側について戦争が終わります。問題はその後です。貴方がお亡くなりになる後の話ですが、日本は中国大陸で戦争を始め、そして、ヨーロッパ諸国で起こった大戦に関わる形で世界大戦に加わります。そして、この戦争では日本は大敗するのです。多くの犠牲者を国の内外で出してしまい、それにより日本は二度と戦争をしない国となる道を歩むことになるのです」
 源太は淡々と語った。東堂は無表情に聞いていたが、しばらく沈黙の間をおいた後、
「なるほど、おはんがあんなことを言っていたのも頷ける。負けたからこそ、そんな考え方になるのじゃろう。おはんの国では、軍隊はどうなったのじゃ」
「軍隊は新しい憲法によって廃止され、代わりに自衛隊という名の自衛を目的とした軍隊を持つことになります。ただ、それは軍隊ではないので、武器は持っても戦闘はしないことになっております」
「何? 武器があるのに戦闘はしてはならぬというのか。それはおかしな話だな」
「二度と間違った戦争を起こさないためにも、軍隊としての活動は制限しようという考え方です」
「ほう、実に奇妙じゃが、それは戦争に負けると勝った国が課してくる要求じゃな。この艦は記念艦になっているということじゃが、おはんはいったいどうしてこの艦に来たのじゃ。戦争は嫌だと言っとたではないか」
「単なる偶然です。道に迷って辿り着いたのです。本当は別のところに行くはずでした」
「別のところ?」

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三笠 | 20:16:53 | Trackback(0) | Comments(0)
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